第10話!! ケガ人の治療なのだ!!






 アライさんは頑張って頑張って、村の人たちを元気にしていったのだ。

 たまにツライこともあったけど、アライさんはめげずに頑張ったのだ。


 アライさんが来て5日くらいたったときには、薬屋に疫病で来る人はほとんどいなくなっていたのだ。

 あまり人が来なくなったのはちょっと寂しかったけど、薬屋を出て村を歩くとみんなが優しくしてくれるようになったのだ。


「アライ様!この間はありがとうございます!」

「アライ様!うちの団子です!どうぞ!」

「アライ様!握手してください!」


 アライさんは笑顔を振りまきつつ、お団子を頬張りながら目の前のケンジと握手したのだ。

 いやぁ〜人気者は大変なのだ。

 アライさんは人気者になってみたいと前まえから思ってたけど、実際になってみるといろいろ大変なことがわかったのだ。でも人気者になったからには人気者らしく振る舞わなきゃダメなのだ!


 …………あれ?


 おかしいのだ。アライさんはいつから人気者になりたいって思ってたのだ?思い出せないけど、何かしらのきっかけがあったはずなのだ。

 なんだっけ……えっと……。


「アライ殿ー!やっと見つけましたぞ!」


 腕を組んで考えていると召使のケンジが大きく手を振りながらやってきたのだ。

 アライさんが召使のケンジの方を見ると、彼は息を切らせながらしわがれ声で言ってきたのだ。


「薬屋に冒険者が見られたのですが、今にも死にそうな状態なのです!アライ殿の神の手が必要と、ぼっちゃまがおっしゃっていました!」

「分かったのだ!すぐ行くのだ!」


 アライさんは考えるのをやめて残りのお団子を全部口に入れると、薬屋へ向かって走ったのだ。



 〜〜〜〜



「ゼェッ、ゼェッ」

「痛み度めは処方しましたので安静にしててください。すぐに助けが来ますから」


 アライさんが薬屋に入ると、賢者のケンジが金髪の強そうなやつを介抱していたのだ。

 強そうって言ってもふもとのケンジみたいに筋肉もりもりというわけではなくて、ほどよく筋肉がついた俊敏そうな動きをするタイプだったのだ。

 そいつはイノシシか何かの毛皮でできた袖のない服に腰巻きとなかなかワイルドな服装だったのだ。


「あ!アライさん!早くこちらへ!」


 賢者のケンジはアライさんの存在に気付くとアライさんに呼びかけたのだ。

 呼ばれたアライさんが金髪が横たわっているかんたんなベッドまで行くと、金髪が喋りかけてきたのだ。


「ゼェッ、お、お前が……ゼェッ、か、神の手を、持っているのか……?」

「喋らないで!傷が開いてしまう!」


 賢者のケンジが言うとおり、かなり危険な状態みたいなのだ。全身が血だらけで息をするのも大変そうなのだ。見てるこっちがツラくなってくるのだ。早いところ治してあげなきゃかわいそうなのだ。


 アライさんは血がいっぱい付いている上半身からマッサージをはじめたのだ。いつもどおり、触ったところからみるみるうちに回復していったのだ。血が噴き出ていた傷口はふさがって、青あざはもとの綺麗な肌色にもどるのだ。傷だらけの顔をなでると、そこそこ整ったお顔がでてきたのだ。


「終わったのだ」


 アライさんはケガが治ったことを賢者のケンジに伝えたのだ。


「いつもありがとうございます。お礼に夕飯のたくあん僕の分もあげます」

「わーい!やったのだ!」

「し、静かにしてあげましょう」


 賢者のケンジは鼻の前に人差し指を立てながら言うのだ。隣ではさっき治した金髪がすぅすぅと寝息を立てているのだ。

 確かに起こしちゃかわいそうなのだ。アライさんはちいさめな声で賢者のケンジに話しかけたのだ。


「なあ、賢者のケンジ?なんでコイツは血だらけで運ばれてきたのだ?」


 賢者のケンジは難しい顔をしながら答えたのだ。


「おそらく、ひとつ目妖怪にやられたのだと思います」


 ひとつ目妖怪?アライさんがこの前襲われたセルリアンのことか?

 あ!そういえば賢者のケンジにこのことを教えてもらうはずだったのにまだ教えてもらっていないのだ!


「そうだケンジ!ひとつ目妖怪について教えろなのだ!」

「し、静かに!」


 アライさんは興奮してまた大声を出してしまったみたいなのだ。今後気をつけなきゃなのだ。

 アライさんは静かな声で言い直したのだ。


「ひとつ目妖怪って何なのだ……?」

「……目が一つしかない不気味な怪物のことです」

「それは分かっているのだ。もっと詳しく教えろなのだ」


 アライさんが急かすと、賢者のケンジが黙ったのだ。


「どうしたのだ?何か言えないようなことでもあるのか?」

「いえ。そういう訳ではないのですが」

「じゃあ早く教えろなのだ」

「実のところよく分からないのです」


 賢者のケンジは早口で言ったのだ。


「分からないのか!?なんでなのだ!」

「いえ、裏の山にたくさんいるってことは分かっているんです。頂上に向かうにつれて凶悪なものが増えるということも分かってます。しかし奴らがどうやって産まれるかとか、どうして人を襲うのかとか、まだまだ分からないことだらけなんです」

「そうなのか」


 思えば一つ目妖怪に似ているセルリアンも分からないのことだらけなのだ。アライさんもセルリアンについて教えろと言われても答えられないのだ。だから分からないことを無理に教えろと言っても仕方ないのだ。

 分かる範囲で答えてもらうのだ。


「山の頂上に向かうに連れて凶悪なやつが増えると言ったな?じゃあ頂上には何があるのだ?」

「そのことですか……あくまで伝説なのですが、お答えします」


 伝説!?何なのだその素敵な響きは!一体何があるのだ?!

 アライさんがゴクリとつばを飲み込むと、賢者のケンジは説明を始めたのだ。


「裏の山……黄金山こがねやまの頂上には、お祈りした願いをなんでも叶えてくれるという黄金の神社があるのです」

「何〜!それは本当か!?」

「いえ、あくまで伝説です。ひとつ目妖怪があまりにも強力すぎて、誰も行ったことがないのです。確かめようがありませんよ」

「いいや。黄金の神社はあるね」


 賢者のケンジがため息をつきながら言うと、隣のベッドから声がしたのだ。どうやら金髪を起こしてしまったみたいなのだ。

 賢者のケンジはまだ寝るように促してたけど、金髪は続けて言うのだ。


「俺は8合目の途中まで行ったんだ。そして黄金の鳥居を見た。あの先には絶対黄金の神社があるはずだぜ」

「は、8合目まで行けたのですか!?」


 賢者のケンジは今までにないほど驚いていたのだ。驚く賢者のケンジを見て、金髪はベッドから起き上がると、続けてしゃべりだしたのだ。


「ああ……だがとんでもないひとつ目妖怪に出くわしちまってこのザマだ。俺の手持ちの刀はあいつにすべて折られれちまった。それほどヤバイところなんだ」


 金髪はちょっとだけ震えながら言ったのだ。

 こんなに強そうなやつが震えるなんてどんだけ怖いところなのだ?でも、さっきの血だらけの体を思い出したら納得したのだ。

 ここで賢者のケンジは金髪に尋ねたのだ。


「失礼ですが……お名前は……?8合目まで行った方は初めてなので是非教えて貰いたいです」


 どうせケンジなのだ。聞かなくてもわかるのだ。


「俺か?俺はケンジ。剣士のケンジだ」


 ほれみろケンジなのだ。アライさんの予想通りなのだ。


「ケンジさんですか。いい名前ですね」


 お前も同じ名前なのだ。


「ところで剣士のケンジさんは、なんで黄金山に登ったのですか?叶えたい願いがあるのですか?」

「ああ、俺の願いはただひとつ、国の疫病を鎮めることだ」


 剣士のケンジが言い切らないうちに、賢者のケンジはアライさんに目配せしたのだ。

 分かっているのだ。アライさんの技で治せば解決できるのだ。そう思ってアライさんが頷くと、賢者のケンジが言い出したのだ。


「実はアライさんには疫病を治す力もあるのです。どうでしょう。ここはひとつ、アライさんに任せてみては……ってケンジさん?」


 剣士のケンジは賢者のケンジの話を聞かないで、薬棚に向かってふらふらと歩いて行ったのだ。

 そして薬棚のとなりに立てかけてあったアライさんの棒の前で前で止まったのだ。


「おいおいおい……これって『ひとつ目殺し』じゃないか?こんな無造作に置かれて……」


 剣士のケンジはそう言ってアライさんの棒に手を伸ばしたのだ!アライさんは触られるのが嫌だから急いで棒の方に行ったのだ。


「ダメなのだ!これはアライさんがもらった棒なのだ!触っちゃやなのだ!」


 アライさんが大事な棒を背中に隠すと、剣士のケンジが言ってきたのだ。


「棒ってお前、その刀の価値が分かってるのか?世界に1本しかない最強の刀だぞ?」

「そんなの関係ないのだ!アライさんがもらったからアライさんのものなのだ!」


 アライさんがなるべく怖い顔を作ってにらみつけたら、剣士のケンジが表情を変えて言ったのだ。


「ああ分かったよアライさん。じゃあちょっとだけ見せてくれ。それならいいだろう?」

「ダメといったらダメなのだ!」

「いいだろ減るもんじゃないし!」


 剣士のケンジがアライさんに手を伸ばしてくるのをアライさんがはらいのけると、今度はその大きな手で掴みかかろうとしてきたのだ。

 間一髪アライさんはしゃがんでかわしたけど、剣士のケンジはまだ追いかけてくるのだ。


「このっ待てっ!」

「やなのだ!」


「やめてください二人共!!」


 賢者のケンジはそう言ったけど、剣士のケンジはまだ追いかけてくるからアライさんは逃げるしかなかったのだ!だからアライさんは棒を持って薬屋を飛び出してしまったのだ。


「う、どっちに逃げればいいのだ?」


 アライさんが振り返ると剣士のケンジが薬屋の暖簾から顔を出していたのだ。こ、怖いのだ……。早く逃げなきゃ……。

 そのとき、剣士のケンジがなんか叫びだしたのだ。


「脚力強化の術!!そこだあ!」

「ふぇ?」


 気がついたら砂埃が舞っていて、剣士のケンジが目の前にいたのだ。何が起こったのだ?アライさんが混乱していると、剣士のケンジがアライさんの肩を掴みながら言ってきたのだ。


「鬼ごっこは俺の勝ちだな。さあ刀を渡しな」


 鬼ごっこ?アライさんはそんなことしてたつもりはないのだ。ただ逃げてただけなのだ。

 それにコイツにこれを渡すなんてゼッタイ嫌なのだ!


「イヤなのだ!離すのだ!」


 アライさんはもがいて逃げようとしたけど、アライさんの肩はがっちりと掴まれてしまっていてピクリとも動けなかったのだ。

 膠着状態のさなかに、賢者のケンジがやってきて、言ったのだ。


「剣士のケンジさん!もうやめてあげてください!!アライさんはあなたの命を救ってくれたんですよ!あなたはまず感謝するべきです!」


 賢者のケンジの忠言が聞いたのか、剣士のケンジがその手を緩めたのだ。


「……申し訳ないことをした。すまない。そして助けてくれて感謝する」

「ふんっ。わかればいいのだ」


 アライさんは優しいから許してあげたのだ。

 でもそのあとに賢者のケンジがとんでもないことを言い出したのだ。


「剣士のケンジさん。今晩泊まるところありますか?よければうちに泊まりませんか?」

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