第12話!! ここでもお仕事なのだ!!
フェネックと呼ばれたやつは、盗賊のケンジに呼ばれるとのろのろとアライさんの近くにやってきたのだ。近くで見るとやっぱり、そうだったのだ。
「お、お前!そのお耳としっぽ!フレンズだな?!」
「…………」
久しぶりにフレンズに会って、アライさんはうれしかったのだ。正直会う人会う人がケンジばっかりで、もううんざりだったから。友達になりたいと思ったアライさんはそのフレンズに自己紹介をしたのだ。
「なあお前!フェネックと言うのだな!アライさんはアライさんなのだ!友だちになるのだ!」
「…………」
「アライさんはな、目が覚めたら知らない場所にいて、他にフレンズがいなくて、ちょっと不安だったのだ。なんと言うか、お前に会えてホっとしたのだ。だから、なあ、友だちにならないか?」
「…………」
「なあ、フェネック」
「…………」
アライさんがどんなに話しても、フェネックは眉毛をピクリとも動かさなかったのだ。こんなに大きなお耳をしておいて聞く耳を持たないなんて、一体どういうつもりなのだ?反応しないフェネックにアライさんは声を荒げたのだ。
「おいフェネック!返事をするのだ!ツンボかお前は!」
「…………」
「無駄だぜ、アライさん。フェネックはしゃべらねえ」
叫ぶアライさんに対して、盗賊のケンジはため息をつきながら言ったのだ。
「は?しゃべらないって、どういうことなのだ?」
「そのままの意味さ。こいつはずいぶん前にケンジ様が地下に閉じ込められているところを助けた。だが、そのときからずっとしゃべらないんだ」
そんなこと言われても、せっかく会ったんだからしゃべって貰わないと困るのだ。
「フェネック!しゃべるのだ!そのお口は何のために付いているのだ!」
アライさんはフェネックの口を手で無理やりこじ開けたのだ。フェネックは露骨に嫌そうな顔をしたけど、そんなの関係ないのだ。
「ほら!このまま『あー』って言ってみるのだ!」
フェネックはじたばたともがいた挙句、アライさんを突き飛ばしてきたのだ。
「ぎゃっ」
アライさんはそのまま滑る床の上に倒れこんでしまったのだ。ツツーって滑って、そのまま壁に激突。そしてその衝撃で上に置いてあったタライが頭に落ちてきたのだ。
「ぶっ」
カアンと気味のいい音が小屋に響くのだ。
それとは違ってアライさんの頭はじんじんと痛むのだ。うぅ……ツライのだ……
アライさんがタライが当たったところを擦っていると、フェネックがこちらに近づいてきたのだ。
「何なのだ?アライさんを笑いに来たのか?」
でも、フェネックの顔を見るとどうやら違うみたいなのだ。申し訳なさそうな顔で、口をパクパクさせていたのだ。
「もしかして、アライさんに謝っているのか?」
アライさんが言うと、フェネックはコクリと頷いたのだ。コイツ一応話は通じるみたいなのだ。
「フェネックお前、しゃべらないのではなく、しゃべれないのだな?」
アライさんの問いに目の前のフレンズはまたコクリと頷いたのだ。
「それならそうだと最初から言えばいいのに!」
アライさんが勢い良く立ち上がると、また床がツルッと滑って、壁に激突。衝撃でふたつ目のタライが頭に落ちてきたのだ。
「ぐぶっ」
またカアンと音が鳴ったのだ。同じポイントに衝撃を受けて、じんじんした痛みは倍増なのだ。フェネックはアライさんを呆気にとられた顔で見てたかと思えば、その口元をニヤリとさせたのだ。
「お前ぇ!何笑ってるのだ!」
アライさんが大声で怒鳴りつけると、フェネックはシュンとした顔に変わったのだ。アライさんは何か悪いことをした気分になってしまって、慌てて訂正したのだ。
「いやいやいや!笑っていいのだ!アライさんが面白いことをしたら、笑っていいのだ!ほら笑うのだ!こうやって!」
アライさんはフェネックの両頬を掴むと、ぎゅーって横に引っ張ったのだ。ふむ……なかなか面白い顔なのだ。
アライさんがそのままフェネックの顔で遊んでいると、小屋の外から声が聞こえてきたのだ。
「ここで疫病の治療をやっとるって本当か?」
すると盗賊のケンジが応答したのだ。
「ああ、ヒゴのケンジか。本当だぜ。今日から始めたんだ」
「そうか、じゃあ頼っばい。うちん弟のかかっちまったけん」
「おう、任せろ」
盗賊のケンジはそう言うと、小屋の隅にいたアライさんを引っ張って入り口まで連れて行ったのだ。全く乱暴なやつなのだ。アライさんに優しくしろなのだ。
そう思っていたのもつかの間、盗賊のケンジが目の前の変な言葉のやつにアライさんの紹介をはじめたのだ。
「コイツが神の手を持つと話題のアライさんだぜ。ケンジ様がめちゃくちゃ遠い村からかっさらってきたんだ。その労力はハンパなかった。……という訳で、治療代は1リョーでどうだ?」
「1リョー!?半年分の生活費と変わらんちゃなか?!」
「いや別に払わなくたっていいんだぜ?その場合弟の治療はしないがな!」
「分かった……治ったら月賦で払う」
「そう来なくっちゃ!おら、アライさん!出番だぜ!」
盗賊のケンジはそう言ってアライさんの尻を叩いたのだ。くそぉ痛いのだ。本当にコイツは嫌なやつなのだ。でも要するに、この変な言葉のやつ……ヒゴのケンジの弟を治せばいいのだな?やることは薬屋にいた頃と変わらないみたいなのだ。アライさんはこの仕事は嫌いではないから、仕事があるならやってあげるのだ。
「分かったのだ。弟のところまで案内するのだ」
「……頼むばい」
アライさんはヒゴのケンジに連れられて、盗賊のケンジと一緒に小屋を出たのだ。後ろからフェネックもついてくるみたいなのだ。
小屋を出た瞬間、アライさんは驚いて腰を抜かしてしまったのだ。そこにはアライさんが見たことない光景がいっぱいあったから!
まず何よりも、人の多さ!村のときでも薬屋の前に行列ができていたけど、そんなのものじゃないのだ!右を向いても左を向いても数えきれないほど大勢の人がいて、アライさんはクラクラしてしまいそうになったのだ。
そしてアライさんが小屋だと思っていたお家は、長い長い長ーいお家だったのだ!たぶん賢者のケンジがいたお家よりもずぅっと長いのだ!盗賊のケンジって実はすごいお家に住んでいるすごいやつなんじゃないか!?
「このお家は盗賊のケンジのものなのか!?お前見かけと性格によらずすごいやつなのだな!」
「ふっ。まあな」
「何言うっとっと?こいは長屋ばい!」
「長屋?」
ヒゴのケンジが言うには、長屋は全部盗賊のケンジのものと言うわけではなくて、盗賊のケンジはそのうちの一部屋だけ借りているだけらしいのだ。
つまり盗賊のケンジにはさっきのうす暗い部屋しか縄張りがない。……いやそれどころか、そこすら盗賊のケンジの縄張りではないということみたいなのだ。
何だ全然大したことないのだ。
「お前今俺が大したことないとか思ったろ」
「それよりケンジ!あの建物はなんなのだ?」
今度アライさんが見た先にあったのは、長屋とは打って変わって、幅も奥行きもアライさんの歩幅くらいしかない、でも4段くらいの階段がついていて、アライさんの身長の倍の高さがある不思議な建物。なんか縦に長い木の箱みたいだったのだ。
「ああ、あれは共同便所だ」
「きょーどーべんじょ?」
アライさんはその建物に近づいてみたのだ。
階段を登った先にあるのは人が入るための入り口で、それとは別に階段の後ろ側には何か取っ手みたいのが付いていたのだ。
これはなんなのだ?
アライさんが気になって引っ張ろうとしたら、急に腕を掴まれたのだ。
「な、なんなのだ?!」
見ると、フェネックがアライさんを見ながら首を横に振っていたのだ。……つまり、この取っ手を引っ張るなってことなのか?
「フェネック?どういうつもりなのだ?」
フェネックはただ首を横に振るだけなのだ。
しゃべれないフェネックの代わりに盗賊のケンジが答えたのだ。
「その取っ手を引っ張ると、うんこが大量に放出されるんだ。それを引き止めているんだろう。ケンジ様はどうでもいいがな」
なんと!この箱にはうんこが入っているのか!アライさんは動物だったときため糞していたから気持ちわかるのだ。うんこは自分の分身みたいなものだから、自分の場所だと示すのに何かと都合がいいのだ。きっとここらの人間は人混みのなかそうやって自分を主張しているのだな!あまり人が多いのも考えものなのだ。
でもどうしてわざわざ取り出せるようにしているのだ?
「そいは、お百姓さんが使うためばい」
ヒゴのケンジは言って続けたのだ。
「お百姓さんはこいから肥溜めってやつを作りよんよ。そいぎそいを肥料にして、美味か野菜をつくりよらすけん、感謝せんばいかんよ」
何言ってるかよく分からないけど、とにかくお百姓さんが野菜を作ることはわかったのだ。新しい知識を得たアライさんは成長したのだ。エッヘンなのだ。
「ってこんなこと説明しちょる場合やなか!弟んとこにいかんば!」
ヒゴのケンジは思い出したように言うと、そのまま小走りをはじめたのだ。アライさんもそのケンジに続いて走ったのだ。途中で気になるものをいっぱい見つけたけど、それは後回しにして、とりあえずコイツに付いていくことにしたのだ。
〜〜〜〜
「ケンジ!お医者さんを連れて来たばい!」
ヒゴのケンジは扉を開けたのだ。コイツの家は盗賊のケンジの家から3分くらいのところにある、盗賊のケンジと同じ長屋の一室だったのだ。
その部屋の真ん中で、苦しそうな表情の青年がやはり粗末な布団の上で横たわっていたのだ。こういう光景はなんども見てきたけど、これは重症な方の部類に入るのだ。急いで治さなきゃなのだ。
「今治すから少し我慢するのだ」
アライさんが横たわっているケンジをさすると、顔色がだんだん明るくなって、汗が引いてくるのだ。そのうちコイツは穏やかな表情になって、キョトンとして顔で言ったのだ。
「兄ちゃん?おい治ったと?」
「治ったとよー!ケンジー!」
そう言って兄弟は抱き合ったのだ。
こういったシーンは今までも何度見てきたかわからないけど、何度見ても心がほんわかした気持ちになるのだ。隣にいるフェネックも心なしか嬉しそうなのだ。
「ありがとうアライさん。なんとお礼を言ったらいいのかわからんです……この借りは約束通りお金にして返すけんよろしくお願いします」
アライさんは手をとられて心から褒められたのだ。ふふふ……だからこの仕事はやりがいがあるし、やめられないのだ。
ふと盗賊のケンジを見ると、ニヤニヤしながらぶつぶつと何かつぶやいていたのだ。
「フハハハ……これで1リョーとは、ボロい商売だぜ」
なんのことだか分からないけど、やっぱり盗賊のケンジは嫌な感じがするのだ……
〜〜〜〜
帰り道でアライさんは気になっていたことを聞いてみたのだ。
「なあ、盗賊のケンジ?ひとついいか?」
「何だ?」
「どうしてヒゴのケンジは、あんなに変な言葉だったのだ?何を言ってるのかよく分からなかったのだ」
「ああ、それは方言だからだ」
ほうげん?聞いたことがないのだ。
「国が違えば言葉が違うということだぜ。この町はたくさんの国からたくさんの人が集まってくるんだ。だから色々な言葉のやつがいる」
「なるほど色々なやつがいるのだな……」
アライさんは納得したけど、新しい疑問が出てきたのだ。
「しかしまたどうして人が集まってくるのだ?」
「そりゃあ……まあ……人がいるからかな?」
盗賊のケンジは困った顔で言ったのだ。
人がいるから人が集まってくるのか?人が集まるから人がいるんじゃないのか?
……?
よく分からないのだ。
アライさんが考えている最中盗賊のケンジも考えていたみたいで、そのうち思いついたような顔で言ってきたのだ。
「人がいればそれだけ助けが必要な人が増えるだろ?だからそのために人が入ってくるんだ。入って来た奴らも助けが必要なときもあるから、そいつらを助けるために、また人が入ってくるんだ」
盗賊のケンジは続けてしたり顔で言ったのだ。
「今この町では疫病が蔓延してるから、助けが必要な人が増えているんだぜ。だからアライさん。助けられるお前はここに来たって訳だ」
なるほど……つまりみんなを助けるためにアライさんはこの町に連れて来られたということか。人助けをするってことは盗賊のケンジも案外悪いやつではないのかもしれないな!
下につくのはしゃくだけど、一緒にやっても構わないのだ。
それにちょっと周りを見渡すだけで、まだまだ気になるものがいっぱいあるのだ。アライさんは、色んな所に行って色んなものを見るのが大好きだから、この町にしばらくいるのも悪くなさそうなのだ。
そうと決まればよーし!ムラでの危機は救ったし、今度はこの町の危機を救ってやるのだ!
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