第8話!! 薬屋の手伝いなのだ!!





「僕の家は薬屋なんです」


 賢者のケンジはそう言ったのだ。

 くすりってなんなのだ?アライさんがわからないことを伝えると、賢者のケンジは答えてくれたのだ。


「薬というのは、例えば病気になった人やけがをした人を楽にするためのものです」


 そこでアライさんは気づいたのだ。


「じゃあ……アライさんのフレンズの技と薬は同じようなものなのか?」


 賢者のケンジはその答えを待っていたようなのだ。


「そうです。だからアライさん。あなたの技で、僕の店を手伝ってくれませんか?あなたにしかできないことなんだ」

「そういうことなら、アライさんにおまかせなのだ!」


 アライさんは特に断る理由もないので、二つ返事で了承したのだ。

 アライさんの力で賢者のケンジの腰を治したときも、ケンジの母上を助けたときも、みんなとっても嬉しそうな顔をしていたし、アライさんもうれしい気持ちになったのだ。

 なにより自分の力が役に立つことは、自分が認められた気がしてうれしいことなのだ。


 そう思ってたら突然うしろから声が聞こえたのだ。


「ケンジあんたすごい嫁さん連れて来たねぇ。最近は疫病のせいでお客さん多くて大変だったけどこれなら…」

「母上!まだ休んでいてください!」


 賢者のケンジの母上だったのだ。

 ケンジの母上は賢者のケンジに言われるとすごすごと部屋に戻っていったのだ。


「賢者のケンジ?疫病って何なのだ?」

「最近世界中ではやっている謎の病気です。かかってしまうと、高熱、食欲の不振、めまい、頭痛、大量の発汗などの症状が慢性的に現れます。僕の店の薬を使えば多少楽になるのですが、根本的な治療法はいまだ見つかっていないのです」

「よくわからないけど、大変そうなのだな」


 アライさんは何とかしてあげたいなと思ったのだ。


「それで、薬屋ってどうやって人を助けるのだ?」

「それは今から説明します」


 賢者のケンジはアライさんを家の裏側まで案内してくれたのだ。

 でもこっちの方が入り口が広いから、こちらが本当の入り口のような気がするけど。

 そこでアライさんが見たのは、棚の中で瓶詰めにされているたくさんの草だったのだ。


「これは……すごいのだぁ」

「ハハハ……そうでもないですよ」


 賢者のケンジはそうでもないとか言っていたけど、こいつはまもなく瓶のなかの草の説明をし始めたのだ。草の名前、せいそくち?こうのう?なんだかアライさんの知らないことだらけだったけど、これらを全部覚えて体が悪いひとの状況に合わせて正しい量をあげるらしいのだ。そうすればよくなるんだと。

 賢者のケンジはすごいのだ。

 そう思ったアライさんはつい言ったのだ。


「賢者のケンジはとっても物知りなのだ!」

「ははは。そうでもないですよ」


 賢者のケンジは笑ってごまかしたけど、ひいき目抜きでこの人はすごいなと思ったのだ。

 と、ここで家の前から声がしたのだ。


「すいませーん」


 誰なのだ?

 アライさんが考えるまもなく賢者のケンジが営業スマイルで接客を始めたのだ。

 でも相手はなにか不安そうな顔つきをしているのだ。


「二丁目のケンジさん!毎度どうも!」

「どうも、賢者のケンジさん。ついにうちでも出ちまったよ……」

「疫病……ですね?」


 二丁目のケンジがゆっくりうなずくと、二人は神妙な顔に変わったのだ。

 疫病と聞こえたのだ。確か治療法がまだ見つかっていないってさっき聞いたのだ。これは大変なのだ。

 それにしてもこいつもケンジというのか?ここはケンジばっかりなのだ。

 そんなことは気にせず二人の話は続いていたのだ。

 しばらくしてケンジは棚の方に行くと、草の瓶をいくつか取り出して持ってきたのだ。


「熱に効く薬草、頭痛に効く薬草です。しばらくこれで様子を見てください……と言いたいところですが、実はもう一つ方法があります」

「というと?」


 賢者のケンジはアライさんの方をちらっと見たのだ。


「実はあそこにいる私の婚約者は、回復の術が使えます。二丁目のケンジさんがよろしければ、彼女の術で治療するという方法もあります」


 二丁目のケンジはアライさんの方をじっと見て来たのだ。


「婚約者っていってもよぉ……よそ者なんじゃないのかい?なんか俺ちょっとやだな……」


 どうやら二丁目のケンジはアライさんのことを信用していないみたいなのだ。

 まあ、とうぜんと言えばとうぜんなのだ。見知らぬやつが急に助けてくれるって言っても怖いことはアライさんもわかるのだ。

 しかし賢者のケンジは食い下がったのだ。


「それでは、息子さんはずっと苦しいままかもしれませんよ?かわいそうに……私の薬は対症療法。薬が切れたらまた症状が出てきます」


 賢者のケンジは続けるのだ。


「しかし、僕のアライさんなら術で一発です。母もこれでよくなりました」


 アライさんは賢者のケンジのものになった覚えはないのだ。

 二丁目のケンジはむずかしそうな顔をしてかんがえこんでいたようだったけど、ついに折れたみたいなのだ。


「わかったよ!賢者様の言うことに従うことにするよ!」



 ~~~~



 アライさんは近所のあばら家に連れてこられたのだ。

 そこにはわらの上で顔色が悪い小さな子供が寝息を立てていたのだ。

 何なのだこのベッドは。

 アライさんの方が三十倍マシなベッドを作れるのだ。アライさんにやらせろなのだ。

 そんなことを考えていると、賢者のケンジが背中をたたいて声をかけてきたのだ。


「アライさん。よろしくお願いします」


 まあ仕方ないのだ。アライさんは今の自分にしかできないことをやるのだ。

 アライさんはその子の近くに行って優しくマッサージをしてやったのだ。

 なんか異常な視線を感じると思ったら、二丁目のケンジがアライさんをじーっと見ていたからだったのだ。ちょっと緊張したのだ。

 そのうち小さな子供の顔色がよくなって、ベッドのようなものから飛び上がって、二丁目のケンジのもとへかけよったのだ。


「おお-!ケンジⅡ!!」

「パパーーー!!」


 やれやれ、一件落着なのだ。

 一息ついたアライさんがあぐらをかいてベッドのわらをいじっていると、二丁目のケンジが近寄ってきて話しかけてきたのだ。


「アライさん!あなたは息子の恩人だ!感謝します!」

「よ、よすのだ。それほどのことではないのだ」

「いいえそれほどのことです!」


 迫真の顔でお礼を言われると、なんだか照れ臭いのだ。


「このご恩は一生忘れません!また是非よろしくお願いします!!」


 アライさんの両手を取って、固い握手を何分もしてきたのだ。

 ……悪い気はしないのだ。


 そのうち、賢者のケンジが薬屋に戻ることを伝えてきたのだ。

 アライさんは二丁目のケンジからお土産をいっぱいもらって、あばら家を出たのだ。

 振り返ると、二丁目のケンジとその子供がアライさんに向けて手を振ってきているのだ。

 アライさんがちょっと手を振り返すと、子供は小さい手をさらに大きく振り返してくれたのだ。


 ……やっぱり悪い気はしないのだ。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る