第21話!! まんじゅうこわいのだ!!
城を出て一週間、アライさんたちは時間はかかったけど特に苦労することなく黄金山の4合目まで来たのだ。
これも剣士のケンジにアライさんの
剣士のケンジはセルリアンに出くわすと、棒で叩いてやっつけてくれるのだ。アライさんもそのくらいできると思うけど、偉くて優しいアライさんは剣士のケンジに花をもたせてあげているのだ。決してアライさんにはできないという訳ではないのだ。
戦ってないアライさんは何もしていないということはなくて、不意を突かれて怪我をした剣士のケンジを治したりしているのだ。
協力は、しっかりできていると思うのだ。
「しっ!何かいるぞ!」
盗賊のケンジが静かに叫んだのだ。
「どこですか?」
「あのでかいシダの右側だ。人型みたいだな……なんか待ち伏せしてるっぽいぜ」
賢者のケンジが目を凝らすと、何か見つけたみたいなのだ。そして解説をはじめたのだ。
「あれは一つ目妖怪、つるべ飛ばしですね。自分の頭を遠くからぶつけてくる厄介なヤツです。僕が火の術で気を引きますから、剣ちゃん後ろからやっつけて下さい。石は背中にあります」
「分かった」
すぐさま作戦は実行されたのだ。
「火の術!!」
賢者のケンジのこしらえた火の玉はつるべ飛ばしの前をゆっくりと通過していったのだ。それに釣られたつるべ飛ばしは自分の頭を掴んで、火の玉に向かって投げ飛ばしたのだ。
「今です!」
剣士のケンジはいつの間にかつるべ飛ばしの背後を取っていて、背中を棒で切りつけたのだ!
石を壊されたつるべ飛ばしはパッカーンとキラキラを出しながら爆発して、あとかたもなく消えてしまったのだ。
「よし、やったな。みんな無事か?」
「大丈夫なのだ」
こんな調子でアライさんたちは順調に黄金山を踏破していったのだ。
【五合目】
「ん?ずいぶん開けたところに出たな。」
アライさんたちは今までの森のような場所を抜けて、原っぱのようなところに出たのだ。そこには小さな小屋のようなものがあったのだ。
「賢者のケンジ?あれは何なのだ?」
「……小屋、ですね」
「それは見ればわかるのだ」
どうやら賢者のケンジもこんなものがあるとは思っても見なかったようでうろたえていたのだ。賢者のケンジは考えた末に中は危ないかもしれない、無視して進もうと言ったのだ。でもアライさんは中が気になるのだ!
「仕方ない、ケンジ様が様子を見てこよう」
盗賊のケンジはそう言うと、小屋に近寄っていって、側面にあった小さな隙間から中を覗き込んだのだ。盗賊のケンジはちょっとびっくりした顔をすると、静かにこちらに戻ってきたのだ。
「中に二人、人がいるぜ」
「何ー!?」
こんなセルリアンがいっぱいいる中に人が住んでいるのか!?どうしてわざわざこんなところに!これはお話を聞かないとなのだ!
アライさんが小屋に行こうとしたら、剣士のケンジに肩を掴まれたのだ。
「やめとけアライさん。人に化けた一つ目妖怪かもしれない。油断したら一発で死ぬぞ」
「じゃあ油断しないで聞くのだ」
「おい待てや」
アライさんが家の扉を叩くと、中から声がしたのだ。それからドタドタと音がして、何も聞こえなくなったのだ。
「明らかに居留守を使っているな……」
「隠れようとしているなら、一つ目妖怪の可能性は低そうですね」
隠れてる?隠れてるならなおさら気になるアライさんなのだ。アライさんは扉をどんどんどんと叩いたのだ。
「開けるのだ!怖いやつじゃないのだ!アライさんが来たのだ!」
アライさんが名乗りを上げたのと同時に扉が勢い良く開いたのだ。扉は外開きだったので、アライさんは顔を打ち付けてしまったのだ。
「ぎゃあ!」
アライさんが倒れたのを意に介さず、小屋の中に居たやつは叫びはじめたのだ。
「やあやあやあ!我こそはあ!ヘラジカだあ!」
「ヘラジカ様!声が大きいですわ!」
眼の前ににいたのは料理番のケンジよりもでかい屈強なケンジと、銀ピカに光る服に身を包んだケンジだったのだ。……ってあれ?さっきケンジ以外の名前を名乗っていたような??
アライさんは痛いのを我慢して起き上がったのだ。
「どういうことなのだ?お前たちはケンジではないのか?」
「ああ!私はヘラジカ!そして隣がシロサイだ!」
シロサイは軽く会釈したのだ。
……どういうことなのだ?
二人の体つきはがっちりしたものだし、声も低いし、お耳もしっぽもないのでフレンズとは違うみたいなのだ。でも名前は『アライグマ』みたいなフレンズの名前なのだ。
混乱しているアライさんに、シロサイがそっと教えてくれたのだ。
「実は私たちは、『超大型ケンジ』と『鎧のケンジ』という名前ですわ。ですが諸事情でこの名前を名乗っていますの」
「そうなのか?詳しく聞かせるのだ!」
「分かった!遠慮せず中に入れ!」
「ヘラジカ様〜決断が早すぎますわ〜」
野太い声でその口調はなんか変な感じがしたけど、とにかく小屋の中に入れてくれるようなのだ。アライさんたちは歩きっぱなしで結構疲れていたので、ここで少し休憩していくのだ。
〜〜〜〜
「実を言うと、私たちは城から逃げてきたんだ」
ヘラジカは言ったのだ。
「それで偽名を名乗って、人が来ない場所で生活しているというわけですか」
「えぇ……当時は大変でしたわ。ヘラジカ様が急に城を落としに行くぞー!とか言い出して……おかげで甲羅のケンジ、トゲトゲのケンジ、偵察のケンジは未だ城の地下に捕らえられていますの。私たちもまた、この山に隠れて……」
なんと!お城に仲間がいるのか!?
シロサイはうつむいてその後を言わなかったので、アライさんが代わりに気になることを聞いてやったのだ。
「ヘラジカはなぜお城に攻め込んだのだ?」
「……いや。実のところ私自身よくわからないんだ。何故だかは分からないが、攻め込まなきゃいけない。そんな気がしたんだ。今もそれは変わらない!仲間たちを救うためもう一度行かなければ!大丈夫、シロサイとならやれる!」
「いけませんわ!」
興奮して立ち上がったヘラジカをシロサイが制止したのだ。ヘラジカは驚いた目でシロサイを見たのだ。
「し、失礼。お茶を淹れて来ますわ」
シロサイは台所へ向かったのだ。
うーん。アライさんはあそこで散々な目にあったからシロサイの気持ちがわかるのだ。でもアライさんは同時に裁判のときにみんなに助けられたときのことを思い出したのだ。ケンジたちは寒くて暗い留置場からアライさんを救ってくれたのだ。その恩返しというわけではないけど、ヘラジカの仲間もあそこから助けてあげたいという気持ちもあったのだ。
2つの気持ちを天秤にかけて、……いやかけるまでもないのだ。アライさんがやることは決まってるのだ!
「ヘラジカ!!一緒にお城に行くのだ!」
「なに!?」
「アライさんは殿様のケンジと知り合いなのだ!言えばきっと仲間を牢屋から出してくれると思うのだ!だから一緒にお城へ……」
途中まで言いかけていたけど、なにやら後ろから視線を感じたのでアライさんは振り返ったのだ。そこにはすごく嫌そうな顔をしながらアライさんを見つめるケンジたちがいたのだ。
「アライさん……ここから城まで一週間かかるんですよ?用事を済ませてここまで戻ってくるのに2週間です。山頂まではうまくすればあと数時間で着きます。先にオイナリサマのところまで行って、お城へ行くのは後にしませんか?」
「俺もそれに賛成だ」
「で、でもアライさんはヘラジカの仲間を助けたいのだ。今すぐ行かないとかわいそうなのだ。なぁ、盗賊のケンジ?」
盗賊のケンジは腕を組みながら答えるのだ。
「ケンジ様も今回は賢者のケンジに賛成だ。先に願いを叶えてもらおう」
そんな……。アライさんはただ、困ってるフレンズを助けたいだけなのに。でも行かないと言うのならアライさんにも考えがあるのだ。
「分かったのだ。アライさんはヘラジカとお城へ行くのだ。ケンジたちは先に山頂へ行ってるのだ。アライさんもすぐ追いつくから!」
話した途端、ケンジたちの顔がさらに険しくなったのだ。
「何言ってんだよ!ここから先はお前の
「そもそもアライさんがオイナリサマに会いたいって言ったんじゃないですか!」
「先に行けって追いつけるわけないだろう?!」
ケンジたちがわめく中、シロサイが台所からお茶とお菓子をお盆にのせて現れたのだ。
「何事ですの?」
アライさんはお城に行ってシロサイの仲間を助けたい旨を伝えたのだ。
シロサイは不安げな顔で答えたのだ。
「……お気持ちだけ受け取っておきますわ。これはこちらの問題。悪いのは明らかに私たちですもの。あなた方を巻き込むわけにはいきませんわ。ですよね?ヘラジカ様」
「ああシロサイの言うとおりだ。私達が勝手にやったことだ。私達が責任をとらねばなるまい。気にせず先へ進んでくれ」
「でも……」
アライさんが言いかけると、賢者のケンジが肩をポンと叩いて言ってきたのだ。
「アライさん。殿様のケンジも言ってましたよね。山頂までは、『協力』ですよ?」
「賢者のケンジ……」
ここにはアライさんの味方は誰もいないみたいなのだ。悔しいけど、賢者のケンジに従うしかなさそうなのだ。ジャパリパークのアライさんは全部自分のやりたいようにしていたけど、この世界のアライさんは人気者なのだ。自分のことだけではなくてみんなのことを考えなくてはダメなのだ。
そんなことをぼんやり考えていると、シロサイがお菓子を勧めてきたのだ。
「あのーアライさん?えっと、これは私達がそこで取ってきたおまんじゅうです。おひとついかがですか?」
そのまんじゅうは黄色い生地に、見覚えのある『の』のマークが描かれていたのだ。アライさんはびっくりして思わず二度見してしまったのだ。
「な、なんで……なんでじゃぱりまんがここにあるのだ……?」
おかしいのだ。この世界にはお米とうどんとつけものとカレーしかないハズなのだ。じゃぱりまんなんてジャパリパークにしかないものが、どうしてここに……?
「あら、じゃぱりまんをしってるんですの?お詳しいですわね。どうぞ頂いてくださいな」
「うまそうだな。いただくぜ」
盗賊のケンジがじゃぱりまんをひょいとつまみ上げて、口に放り込んだのだ。そして「なかなかうまいな」とつぶやくと、他のケンジも続けてじゃぱりまんを食べ出したのだ。
「アライさんどうしたんですか?食べないのですか?」
アライさんは賢者のケンジにじゃぱりまんを差し出されたのだ。
アライさんはじゃぱりまんを受け取って詳しく見てみたのだ。見れば見るほど、なんの変哲もないただのじゃぱりまんだったのだ。
うーん。まあ気にしても仕方ないかもしれないのだ。じゃぱりまんはじゃぱりまん。毒が入ってるわけでも無さそうだし、おいしくいただくことにするのだ。
「い、いただくのだ」
でもアライさんがじゃぱりまんを食べようとしたそのとき、えもいえぬ不快感がお腹から口に向かって込み上げてきたのだ。
「おええぇぇ……!?」
アライさんは急なことにびっくりして、じゃぱりまんを床に落としてしまったのだ。
「あ、アライさん!?大丈夫ですか?!」
賢者のケンジは駆け寄った拍子に、アライさんの落としたじゃぱりまんを踏みつけたのだ。
「あ……あああ……」
「顔色が悪いですよアライさん。どうしたのですか?」
賢者のケンジは優しくアライさんを介抱してくれたけど、足元には中身が飛び出たじゃぱりまんがあったのだ。
アライさんはそれを見ると、なぜだかわからないけど、胸が締め付けられるような気がして、体中がこわばってしまって、気付けば叫びながら外に飛び出ていたのだ。
「のだああああああ!!!」
「アライさん!?」
「追いかけるぞ!外はセルリアンがいっぱいだ!」
小屋から数十秒走ったところで、アライさんは正気を取り戻したのだ。息を荒げて振り向くと、後ろからケンジたちが駆け寄ってきているのが分かったのだ。
「ハァ……アライさん。本当どうしてしまったのですか?」
分からないのだ。
アライさんはじゃぱりまんを食べようとしただけなのだ。それだけなのに。それだけなのに。
どうして……?
「アレじゃないか?あの、あれるぎい?ってヤツ。そうに決まってるぜ。なあアライさん」
「たぶんそうかもなのだ……」
盗賊のケンジは上を見ながら言ったのだ。
アライさんは自信なかったけど、そのときはそれで良かったのだ。
これが何故かがわかるのは、もう少し先の話なのだ。
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