第22話!! 張り手セルリアンの恐怖なのだ!!

【7合目】


「はぁ……はぁ……アライさん。回復を頼む」

「分かったのだ」


 剣士のケンジが言ってた通り、上に登るほどセルリアンは強くなっていったのだ。

 さっきまで戦っていたのは切れば切るほど分裂していくタイプのセルリアンで、石が全然見つからなくて大分手こずったのだ。

 というのも分裂したセルリアン自体が結構強くて、数が増えたのを振り払うのに一苦労。剣士のケンジは揉みくちゃにされてしまっていたのだ。

 でもそこで盗賊のケンジが洗水の術を使って、剣士のケンジに付いていたセルリアン達を洗い落としたのだ!

 そのまま洗い流されたたくさんのセルリアン達のなかから賢者のケンジが石を持ってるやつを見つけ出して、石を割ると、分裂したセルリアンがまとめてパカーンとはじけ飛んだのだ!

 賢者のケンジは石を持ってるやつは比重が違うから流れていく速さがどうのこうのと言っていたけど、アライさんにはよくわからなかったのだ。倒せれば何でもいいのだ。


 そんなこんなで順調とはいかないまでも、何とか上へ上へと駒を進めていたのだ。



 〜〜〜〜



 ドシーン ドシーン


「うわっ、なんの音なのだ?」

「巨大なセルリアンじゃないか?見つかったらマズいぞ。隠れながら進もう」

「隠れる?戦わないのか?」

「バカ。8合目より先のセルリアンは一撃が重すぎるんだ。一発喰らったら即死レベルだぞ」


 むか。なんか知らないけどアライさんはバカって言われたのだ。バカって言った方がバカだって昔から決まっているのだ。剣士のケンジのバーカバーカ。

 大体このメンバーだったらどんなヤツが来ても倒せそうな気がするし、なによりアライさんは人気者だから隠れるなんて性に合わないのだ。セルリアンでもなんでも相手になってやるのだ!

 そんなことを考えながら歩いていると、前方に何やら赤いものが見えてきたのだ。


「賢者のケンジ?アレは何なのだ?」

「……ついにここまで来たのですね……」


 賢者のケンジはわなわなと震えていたのだ。何なのだ?もったいぶらずに早く教えろなのだ。もしかして、あれが黄金稲荷なのか?


「あれは、八合目の大鳥居です」

「とりい?……とは何なのだ?」

「神の領域とヒトの領域を分ける境界です。あの鳥居を抜けた先はオイナリサマの縄張りということになりますね」

「縄張りか」


 なんだ。ゴールではないのか。

 でもこんな感じに二本足で立ってる大きな建物は、前にどこかで見たことある気がするのだ。確かみんなが楽しみにしていた何かがあって……くっ。またこの感覚なのだ。カレーのときと言いじゃぱりまんのときと言い、なぜだかアライさんが思い出そうとしても思い出せない何かがあるみたいなのだ。


「アライさん?考えごとですか?」

「何でも無い……と思うのだ」


 アライさんはそろそろおかしいと思い始めたのだ。この世界に来る前、パークのゆうえんちを見物したあと。そのあとに何かがあった気がするのだ。でも思い出そうとすると、頭にモヤがかかったようになるのだ。気持ち悪いけど、思い出せないのだ。

 アライさんは目の前の鳥居を見上げてみたのだ。なんのことはない、ただの赤い門?なのだ。


「こんなところにいつまでもいても仕方ないぜ?さっさと行こう。またセルリアンに出くわすかもしれねぇ」


 盗賊のケンジが話しかけてきたのだ。

 全くもってそのとおりなのだ。早く頂上まで行ってオイナリサマに会わないと。

 アライさんは考えるのはやめにして、鳥居をくぐり抜けたのだ。



【8合目】



 鳥居をくぐり抜けた瞬間、アライさんの体はぞわぞわし始めたのだ。アライさんの野生の勘が、ここにいては危険だと知らせているようなのだ。でもここで止まるわけにはいかないのだ!


 ドシーン! ドシーン!


 不意に、さっきよりも大きな音がしたのだ。巨大なセルリアンが近くに迫っているのか?向こうの方から聞こえたのだ。

 アライさんがそちらを見ると、山のように大きなセルリアンがいたのだ。

 そのセルリアンは足と手が付いた人型で、力士をさらに太くした見た目をしていたのだ。

 ヒッ。目が合ったのだ。


 ドシーン!ドシン!ドシンドシンドシンドシン!!


 かと思えば、そのセルリアンはものすごい速さでこちらに迫ってきたのだ!あの巨体が走れるなんて聞いてないのだ!


「うわああああああ!!!みんな。みんな逃げるのだああ!!」


 アライさんは大急ぎで登山道の脇にあった林に入ったのだ。ケンジたちもそれに続くのだ。


 ドシンドシンドシンドシンドシン!!!バキボキボキバキィ!!


 アライさんたちは頑張って逃げたけど、二階建てのお家くらいのサイズがあるセルリアンの足はすごく早くて、アライさんたちとの距離はどんどん縮まっていったのだ。

 木々をなぎ倒しながら迫ってくるセルリアンは、もはや恐怖としか言いようが無かったのだ。


「ひいいぃ賢者のケンジ!!何とかするのだ!」

「何とかって言われても!今は逃げるので精一杯ですよ!」

「じゃあ剣士のケンジ!早くアイツを倒すのだ!」

「ムリ言うな!石の場所が分からなきゃあんなでかいの倒しようがねえ!」


 そうこう言ってる間に例のセルリアンはアライさんのすぐ後ろまで来ていたのだ。

 くぅ……ここで終わりなのか?そんなの、そんなの嫌なのだ!

 ここで盗賊のケンジが後ろに振り返ったのだ。


「どうやらケンジ様の出番のようだな!洗水の術!!」


 盗賊のケンジの周りに泡立った水が現れてセルリアンに襲いかかったのだ!それはぶしゃあと音をたてながら、セルリアンの目玉に直撃したのだ。やったぁ!


「ケンジ様の術で出た水は目に入ると痛いんだ。フッ、的が大きくて助かったぜ」


 盗賊のケンジはカッコつけながら言ったのだ。


 でも、


「盗賊のケンジさん!!伏せて!!」


 ドゴォ!!


 セルリアンには全く効いていないみたいで、その大きな手のひらをケンジに打ち付けてきたのだ。

 間一髪、盗賊のケンジは直撃を避けたみたいだけど、後ろにあった木は粉々になってしまっていたのだ。あんなのに当たったら……考えただけで震えが止まないのだ。


「一旦ふた手に別れましょう!僕とケンちゃんで気を引きますから、アライさんは盗賊のケンジさんと逃げて下さい!」

「分かったのだ」

「火の術!!」


 炎が空に打ち上がり、セルリアンの大きな目玉はそれを追いかけたのだ。

 そのすきにアライさんは粉々になった木のところに行ったのだ。


「盗賊のケンジ?立てるか?走れるか?」

「大丈夫なのだ」


 よかった。一応無事みたいなのだ。……ん?今コイツ、『なのだ』って言わなかったか?。


「おい盗賊のケンジ!なのだはアライさんの語尾なのだ!勝手に盗っちゃイヤなのだ!」


 アライさんが盗賊のケンジを揺さぶると、盗賊のケンジはハッとした顔になったのだ。


「と、盗ってないの……ぜ!あれだ。お前が散々言ってるから移っちまっただけなの…だぜ!」

「ほらー!また言おうとしたのだー!」

「うみゃー!お前らさっさと行けー!!」


 跳躍の術で跳び回る剣士のケンジに急かされて、アライさん達は登山道へ向けて走り出したのだ。

 すると。


 ドシンドシンドシンドシン!!!


 大きなセルリアンは賢者のケンジと剣士のケンジの相手をやめてこちらを追いかけて来たのだ!

 何でなのだあっ!

 アライさん達は散々逃げ回った後で疲れが出始めていたけど、セルリアンは変わらない速度でいつまでも追いかけてくるのだ。

 逃げても逃げても、追いかけてくるのだ。

 怖いのだ……

 はあ……はあ……

 も、もうダメなのだ……逃げ切れない……

 アライさんが立ち止まろうとしたその時、盗賊のケンジがアライさんを横に突き飛ばしてきたのだ!


「何するのだあぁ!!?」


 アライさんはそのままヤブに突っ込んでしまったのだ。


 ドゴーーン!!


 その瞬間、まるで爆発がおこったような、今まで聞いたこともないくらい大きな地響きがしたのだ。

 何なのだ!?


 見ると、先ほどまで元気に走り回っていた巨大セルリアンがうつ伏せで倒れていたのだ。

 すぐそばには、手についた土を払いながらセルリアンを覗き込む寡黙のケンジがいたのだ。

 ……まさかコイツが?


「助かったの…ぜ寡黙のケンジ……まさか落とし穴を掘ってたなんて思わなかった」


 寡黙のケンジは相変わらずの無言で、足の裏にあった石を割ったのだ。

 パッカーンという音と共に、巨大セルリアンはキラキラになって消えていったのだ。

 キラキラの後ろでたたずむ寡黙のケンジの姿をぼうっと見ていたら、アライさんの頭の中でかすかに声が聴こえた気がしたのだ。


(アライさーん。気をつけないとー)


 ……誰の声なのだ?初めて聞いた声のはずなのに、とても懐かしい感じがするのだ。


「おいアライさん……泣いてるのか?」

「ふえ?」


 気づけばアライさんの頬を涙が伝っていたのだ。特に悲しいことはないハズなのになんで涙が出てくるのだ?早起きしたからか?


「感傷に浸っている場合ではないぞ。早いとこ賢者のケンジと剣士のケンジに合流しないとなのっ、ぜ」

「わかってるのだ」


 ドシーン!!


 アライさん達はもう一度林の奥へ行こうとしたのだ。そのときまた例の大きな音がしたのだ。

 何なのだ?もしかして、あの大きなセルリアンは一匹ではなかったというのか!?


「盗賊のケンジ!急ぐのだ!!」

「おうよ!」


 アライさんは疲れているのを忘れて林の奥へ駆け出すと、ほどなくして傷だらけの剣士のケンジと、息を荒げた賢者のケンジを見つけたのだ。

 でも、それと一緒にいたのは。


「そんな……嘘だろ……」


 一緒にいたのは先ほど倒したものよりも二回りは大きい、あのセルリアンだったのだ。

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