第9話!! 疫病の治療なのだ!!
「アライさん。あなたやっぱりすごいですね!」
薬屋に戻ると、賢者のケンジが心底嬉しそうな顔で言ったのだ。
「いや~。アライさんは自分ができることをしたまでなのだ」
「その謙虚な心!僕は尊敬します!」
二人で話していたらのれん越しに野太い声がしたのだ。
「賢者さん!うちの子の病気も治してください!」
そうやって入ってきたのはひげを生やした大柄のやつだったのだ。
賢者のケンジはすぐに応対をはじめたのだ。
「あなたは……山のふもとのケンジさんですね?」
「はい!双子の兄弟がそろって疫病にかかってしまって……」
「それは大変だ!すぐに行きましょう!アライさん!」
アライさんたちが店を出ようとしたら薬屋の前にたくさんの人だかりができていることがわかったのだ。
なんなのだこいつらは!?
アライさんがそう思っていたら、人だかりは口々に声を上げだしたのだ。
「とうちゃんを治して!」
「うちのケンジが!苦しそうなんです!!」
「すごい医者がいるって二丁目のケンジに聞いたぞ!」
どうやらみんな疫病を治してほしい人たちみたいなのだ。
賢者のケンジは押し寄せる群衆にわたわたしていたけど、そのうち大声で言ったのだ。
「みなさん落ち着いてください!順番!順番です!みなさん必ず治しますから、安心してください!」
そしたら人だかりが急に静かになって、みんな賢者のケンジに道を開けたのだ。
「順番か……」
「なら仕方ないわね」
アライさんは不思議だったのだ。さっきまで我先にとやっていた人たちが順番と言われて素直に従っているのがおかしいと思ったのだ。
アライさんだったらすぐに一番になろうと頑張るのに、なんでコイツらはそうしようとしないのだ?
人だかりを抜けて、山のふもとに向かう道中に賢者のケンジに聞いてみたのだ。
「ここの人たちはとても素直なんです。」
賢者のケンジは笑いながら続けたのだ。
「お互いがお互いの気持ちを尊重しあう。言い換えれば、他人の気持ちを考えることができる……と言えばいいのでしょうか。怒っている人が近くにいたら一緒に怒るし、悲しい人が隣にいたら一緒に泣いてくれる。みんなが疫病に苦しんでいるのも自分に当てはめて考えているのでしょう。争っても苦しい人が増えるのが分かっている。そういう人たちなんです」
「そ、そうなのか」
アライさんはいまひとつ納得できなかったのだ。だって結局人は一人のはずなのだ。わざわざ相手の気持ちを考えても仕方ないのだ。
この考えが顔に出ていたのか、賢者のケンジはアライさんをつつきながら言うのだ。
「アライさんも、そういう人だと思いますよ。」
「う、嘘なのだ!」
アライさんは否定したのに、賢者のケンジは無視して言ったのだ。
「見えてきました。ふもとのケンジさんのお家です」
見てみると、さっきと同じでぼろぼろの家だったのだ。
でも、中の双子はアライさんを待っているはずなのだ。頑張って治すのだ。
~~~~
「うぅ……父ちゃん……」
「ケンジA!ケンジB!しっかりしろ!いまお医者さんを連れて来たからな!」
「おいしゃさん……」
おおう、これは重症なのだ。
もう名前には突っ込まないけど、まさに息も絶え絶えって感じなのだ。
早いところ治してあげなきゃかわいそうなのだ。
アライさんは薄い布団の近くによって、ケンジAにマッサージを施したのだ。
アライさんが触っていくたびにどんどん顔色がよくなっていくのだ。
ケンジAが元気そうに目を開けたところで、ケンジBにもマッサージをしてあげたのだ。こいつもケンジAと同じで触るほど顔色がよくなるのだ。ちょっと面白いのだ。
5分くらい触ったら二人のケンジは両方とも元気になったのだ。
「か、神の手……本当だったのか……」
これを見ていたふもとのケンジはぼう然としながら言ったのだ。
「ふもとのケンジさん。もう大丈夫みたいですよ」
賢者のケンジが言うと、ふもとのケンジが我に返って双子にかけよって抱きしめたのだ。
「パパア!」
「パパァ!」
「おお!息子たちよ!」
一見落着なのだ。
みんながうれしそうでなによりなのだ。
やっぱりいいことをするのは気持ちがいいのだ。
「アライさん!あなたは命の恩人だ!どうぞこれを受け取ってくれ!!」
「ありがとなのだ」
アライさんは何か長いものを差し出されたのだ。先の部分は布で覆われてて、他の部分には黒いカバーみたいなのが付いているのだ。持ってみると、とっても重たかったのだ。何なのだこれは?
「ふもとのケンジさん……これって……」
「そうだ。我が家の家宝の刀『一つ目殺し』。息子たちを元気にしてくれた礼だ。受け取ってくれ」
「そ、そんな受け取れませんよこんなお宝!」
なに!?この重い棒はおたからなのかー?!
マッサージしただけでおたからが貰えるなんて、アライさんのマッサージはすごいのだ!
でも賢者のケンジは受け取るのを断ったのだ。貰えるものなら貰った方がオトクなのに、一体何を考えているのだ?アライさんには分からないのだ。
二人のケンジが受け取る受け取らないの押し問答をした果てに、賢者のケンジがアライさんに言ってきたのだ。
「アライさん、刀を返しましょうよ」
でもアライさんはふもとのケンジから受け取れって言われて、受け取ったのだ。せっかくのお宝を返す必要なんて無いはずなのだ。だからアライさんは言ってやったのだ。
「イヤなのだ!これはアライさんが貰ったお宝なのだ!もうアライさんのものなのだ!」
「しかしこれは彼らにとって、とても大切なものなのですよ?」
「うるさいのだ!アライさんが双子を治したのだ!この棒はそれの対価なのだ!」
アライさんの発言のあと、困り顔になった賢者のケンジに、ふもとのケンジが言ったのだ。
「アライさんの言うとおりだ。受け取ってくれ。礼をしたいが俺の家には金目の物がそれだけしかねぇんだ」
「しかし……」
「受け取ってくれ!受け取ってくれなきゃ俺の気が済まねぇ!」
ふもとのケンジが賢者のケンジの肩を掴みながら言ったのだ。そしたら賢者のケンジもやっと折れたみたいなのだ。
やれやれ面倒なやつとケッコンしてしまったのだ。
〜〜〜〜
「アライさん。その刀、大切にしてくださいね」
「言われなくてもそうするのだ」
アライさんが刀をぶんぶん振り回しながら歩いていると召使のケンジが叫びながらやってきたのだ。
「ぼっちゃまー!人がパンパンで大変ですぞー!早く店に戻って来てくださーい!」
「わかったじい。急いで向かおう」
ケンジが返事をすると、アライさんに真剣なトーンで言ってきたのだ。
「アライさん。まだまだ村には疫病に苦しんでいる方が大勢います。アライさんに頼ってばかりで申し訳ないのですが、あなたの力で助けてくれませんか?」
「何をいまさら言ってるのだ賢者のケンジ?アライさんは全員助けるに決まっているのだ!たくさん褒めてもらって、たくさんお宝もらって、たくさんの人を元気にしてやるのだ!」
「……ありがとうございます」
賢者のケンジは頷くと、アライさんの手を引きながら早足で薬屋に戻ったのだ。
召使のケンジの言うとおり、店の前には数えきれないくらい大勢の人が並んでいたのだ。つまり、これだけの人がアライさんを必要としているってことなのだ。
みんなのために、頑張るのだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます