第25話!! change the world/ここはジャパリパークなのだ!


「どういうことなのだ!?」


 剣士のケンジの変化は、現在進行形で進んでいったのだ。短く刈り上げられていた黄色い髪はニュルニュルと伸びて、肩にかからないくらいのショートカットになったのだ。

 かと思えば、その肩はゴキゴキと音を立てながら変形していって華奢な感じに、それと同時に身長がみるみる縮んでいってアライさんと変わらないくらいになったのだ。


「お、俺……縮んでる……」


 剣士のケンジはアライさんと同じ目線で言ったのだ。アライさんはギョッとしたけど、変化はまだ続いているのだ。

 彼がそのいかつい目をまばたきさせたかと思うと、まつげの長いぱっちりと大きな目に変わったのだ。

 古傷がたくさん付いていた泥だらけの皮膚は、健康的な日焼けをしたキメの細かな肌へ。肌の下にあった筋肉は溶けるようになくなって、もっちりとした肉質に置き換わっていったのだ。


「痛あああああ!!入ってくるう!?」


 気づけば剣士のケンジはすっかり高くなってしまった声で、股間を抑えてもだえ始めたのだ。今まで聞いたこともないような悲鳴に、アライさんは怖くなってしまって、ただ見ていることしかできなかったのだ。

 そのうち剣士のケンジは声を上げるのをやめて、涙目で股間をまさぐり始めたのだ。


「そんな……俺の……」


 何が起こったかは分からないけど、その表情はどことなく悲しげだったのだ。

 でもそんなことはお構いなしに、次の変化が襲ってきたようなのだ。


「ひいっ」


 剣士のケンジが履いていた黄土色のズボンがほどかれるように一枚の布に形を変えて、みるみるうちに黄色く染め上げられたかと思うと、黒い斑点の付いたスカートになったのだ。

 ズボンと同じ色だった甚平はいつの間にか真っ白に変わっていたのだ。その紐がシュルシュルと解けていくと、襟がバサッと広がって、剣士のケンジの変わり果てた上半身があらわになったのだ。


「きゃっ」


 剣士のケンジはとっさに隠そうとしたみたいだけど、アライさんはそのぷっくりと膨らんだ乳首を見てしまったのだ。

 でも見たのは一瞬のことだったのだ。

 ボロボロだった甚平が袖のない洋服に変わって、すぐに剣士のケンジの体を包み込んでいくのだ。

 ブラウスの下で、ぷちりぷちりとボタンが留まっていく音が聞こえるのだ。


「む、ムズムズするっ」


 剣士のケンジはそう言うと、今度は頭とおしりを手で掻きはじめたのだ。

 その手にはスカートと同じ柄の手袋を付けてのだ。


「わっ……出るっ!」


 その声と同時に、ぴょこんっと、黄色いお耳ともふもふのしっぽが出てきたのだ。


「な、何これー?」


 剣士のケンジがお耳としっぽをいじっている間、仕上げと言わんばかりに首元にリボンがきゅっと結ばれるのだ。


 今更だけどこの姿、見たことあるのだ。


「剣士のケンジ……お前、サーバルだったのか?」


 そしたら目の前のサーバルがちょっと怒った声で言ったのだ。


「うみゃー!違うよ!俺は剣士のケンジだよお!」

「でもお前は明らかにサーバルなのだ!剣士のケンジじゃないのだ!賢者のケンジもそう思うだろ!?……ってあれ?」


 アライさんはついさっきまでそこにいたはずの賢者のケンジを探したのだ。

 でも見つからなくて、近くにいたのは、赤いTシャツを着て大きなかばんを背負った、見覚えのあるヒトだったのだ。


「かばんさん!?どうしてここに!?」

「ぼ、僕はかばんではありません!」


 そいつは否定したけどどうみてもかばんさんだったのだ。

 一体何がどうなっているのだ?!

 こんなことができるのはただ一人なのだ!


「オイナリ!これはどういうことなのだ!」


 オイナリは全てやりきったという顔をして言ったのだ。


「私は神の力を手放しました。私が変えてしまったものはあるべき姿に戻ります。あるべきところで、私は幸せになりたい」


 ふええ!?

 つまり、どういうことなのだ?

 剣士のケンジはサーバルで、賢者のケンジはもともとかばんさんだったと言うのか?

 ということは今まで会ったケンジたちは全員フレンズだったというのか!?


「察しがいいですねアライさん。まさにそのとおり。ここはもともとジャパリパークなのです」


 衝撃の事実にアライさんは驚いたのだ。

 じゃあ盗賊のケンジは?寡黙のケンジは誰なのだ?

 アライさんが彼らの方を見ると、そこではアライさんとフェネックが自分の体をべたべたと触っていたのだ。

 アライさんはさっきよりももっと驚いたのだ。


「アライさんがもう一人!?どういうことなのだ!?」

「さっきも言ったとおり、ここはもともとジャパリパーク。アライさんもフェネックもいます。もとの姿に戻っただけですよ。当然あなたも例外ではありません」

「…ふえ!?」


 アライさんは自分の姿を見ると、体が半透明になっていたのだ。

 アライさんももとの姿に戻るってことはもしかして……


「オイナリ……アライさんは死体になって、消えてしまうのか?」


 アライさんは死にたくないのだ。こんなところで終わってしまうなんて、死んでも死にきれないのだ。

 死ぬなんて絶対にイヤなのだ!!!

 でもありがたいことにオイナリは否定してくれたのだ。


「いえ、そんなことはありませんよ。あなたは私が干渉しない、最初の世界に戻ります」

「最初の世界……?」

「崖に登ろうとして落ちる世界です」


 ……そうか。その世界か。

 アライさん元の世界に戻れるのはうれしいけど、その世界のフェネックはアライさんをかばって死んでしまうのだ。

 それは悲しいことなのだ。

 オイナリは察したのか、アライさんを励まし始めたのだ。


「アライさん。あなたならあの世界でもやっていけるはずです。あなたのその性格なら、どんな困難でも乗り越えられます……だから…!」

「だから……?」

「……これはもう私がいうべきことでは無いですね」


 オイナリはタメておいて何も言わなかったのだ。

 言えばいいのに、なんで言わないのだ?

 オイナリはアライさんを見て、取り繕うように言ったのだ。


「ほら、ケンジたちとはここでお別れになりますよ!挨拶なさい!」

「わあっ」


 オイナリはアライさんの背中をポンっと押したのだ。

 しょうがないのだ。最後だし話をしてやるのだ。

 アライさんは消えかかった体で、アライさんになった盗賊のケンジのもとへ向かったのだ。

 盗賊のケンジはアライさんを見て消え入るような声で言ったのだ。


「アライさん……ケンジ様の体が、アライさんになってしまった……のだ」

「盗賊のケンジ。もっと自信をもつのだ!」

「そんなこと言ったって……こんな体で……」


 こんな体とは失礼なやつなのだ!

 盗賊のケンジはアライさんで、アライさんはアライさんなのだから、もっと自信を持たなきゃダメなのだ!


「『なのだ』って言ってみるのだ!」

「……は?なんでなの……だよ!」

「いいから、言ーうーのーだー!」


 アライさんが叫ぶと、目の前の同じ姿をしたやつが恥ずかしそうにつぶやいたのだ。


「……なのだ」

「もっと大きな声で!」

「なのだ」

「もっともっと!」

「あああ分かったよ!!なのだ!!なのだなのだなのだ!」


 アライさんはアライさんらしい表情で言ったのだ。

 これなら問題はなさそうなのだ。


 次にアライさんは隣にいたフェネックに話しかけたのだ。


「なあフェネック。アライさんはフェネックが大好きなのだ。あまり直接は言わないけども」

「知ってるよー」


 喋りだしたフェネックに、隣にいたアライさんは驚いていたのだ。

 オイナリの呪いが解けたから、喋れるようになったのだな。そういえばこのアライさんはフェネックの声を聞くのは初めてかもしれないなのだ。

 それも含めて、このアライさんにはフェネックの声をいっぱい聞いて欲しいのだ。


「アライさんはな。この世界のアライさんではないのだ。だからお前とはいられないのだ。その代わりお前は、このアライさんと、ずっとずっと一緒にいてやって欲しいのだ。頼むのだ」

「言われなくてもそのつもりだよー。そっちの私にもよろしく言っといてねー」

「なのだ」


 フェネックはずいぶんと察しがいいのだ。

 もしかしたらフェネックは記憶を消されてなかったのかもしれないな。今となってはどうでもいいことだけど。


 次にアライさんはかばんさんたちのところへ行ったのだ。


「アライさん……その体……」

「かばんさん。いや、賢者のケンジ。アライさんはもうすぐお別れみたいなのだ」

「そんな。嫌ですよ!」


 賢者のケンジは目に涙を浮かべながら言ったのだ。

 言われて気づいたけど、アライさんの体はもうほとんど消えかかっていたのだ。


「賢者のケンジ。お前がいなかったら、アライさんはここまでこれてなかったのだ。最初のセルリアンのときも助けてもらったし、裁判のときも……」

「いいですから!お別れなんてしたくないです!」


 賢者のケンジはアライさんに抱きついてきたのだ。

 全く賢者のケンジは仕方のないやつなのだ。

 アライさんは仕方ないから腕を回して言ってやったのだ。


「お別れじゃないのだ」

「え……?」

「アライさんはあそこにいるのだ。アライさんの代わりにあいつと仲良くしてやって欲しいのだ」


 アライさんは向こうでフェネックと話しているアライさんを指さしたのだ。

 でも、賢者のケンジはかぶりを振ったのだ。


「そういうことじゃなくて……僕はあなたが好きなんです!」


 大胆な告白だけど、これは違うものなのだ。


「アライさんはお前の愛すべきアライさんではないのだ。この世界のアライさんはあいつなのだ。それにお前には剣士のケンジ…サーバルがいるだろ?お前が本当に好きなのはあいつなのだ」

「そんなの関係ありません!僕はアライさんがいいんです!」


 かばんさんはアライさんの目を見て真剣な表情で言ったのだ。

 これはどうせオイナリの洗脳なのだ。

 オイナリは賢者のケンジ(かばんさん)がアライさんを好きになるように暗示をかけているのだ。

 それがまだ解けていないだけ。そうに違いないのだ。

 そう思った矢先、オイナリがぬっと現れたのだ。


「アライさん。私がかけた暗示はすでに解けています。今の言葉は紛れもない真実です」

「ふぇえ!?」


 そ、そうなのか。

 驚く間もなくかばんさんが言葉をかけてきたのだ。


「だからアライさん!またみんなで一緒に暮らしましょう!」


 かばんさんはそういってアライさんを力いっぱい抱きしめたのだ。

 賢者のケンジのときより力は弱いし、体はやわらかかったけど、なぜか温かかったのだ。

 かばんさんの気持ちはアライさんに伝わったのだ。

 アライさん本当はみんなとお別れしたくないのだ。できれば一緒に住みたいのだ。

 でもそれはできないのだ。

 アライさんはこの世界のフレンズではないから。

 もうお別れしなくてはならないから。


「かばんさん……」


 気づけばアライさんはかばんさんよりも強くかばんさんを抱きしめていたのだ。


「いつかあなたのところへ必ず行きます!だからそれまで……」


 かばんさんが言い切らないうちに、アライさんの体はすべて消えてしまったのだ。

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