第19話‼ 異世界イチの人気者になったのだ!!






「それもアライさんがやったという証拠にはなりえません。そもそも何故アライさんを悪者にしたがるのですか?」

「う……うぐぅ……」


 検事のケンジはうめき声をあげるのだ。

 というのも賢者のケンジが来てから、一気に形勢逆転したからなのだ。特にあの、「もしアライさんがやったとしたらアライさんの悪事を見抜けなかった検事のケンジにも責任がある」という発言のあとは、検事の発言が急に弱々しくなったのだ。


「アライさんのやるはずのなかー!」

「アライさんは息子の恩人なんだ!」


 それに時々、後ろの方からガヤが聞こえることもあったのだ。どうやらこの町に来てからマッサージをして、疫病を治してやったケンジたちがアライさんを応援していたようなのだ。その度に裁判官のケンジがいなしていたけど、それでもケンジたちはやめなかったのだ。

 ーー持つべきものは、友達フレンズなのかもしれないな。アライさんは考えを改める必要があるみたいなのだ。


 そんなことを思っていると、後ろの人混みをかき分けて、黄色い服を着たやつがなにか叫びながらやってきたのだ。


「おーいケンちゃん!目を覚ましたぞー!」


 この声は前に聞いたことがあるのだ。フモト村で会った、剣士のケンジなのだ。見ると、剣士のケンジは誰かに肩を貸しながらこちらへ向かって来ていたのだ。隣にいたそいつはなんと、殿様のケンジだったのだ!目を覚まさないのではなかったのか!?


「な、殿様のケンジ様……?!お目覚めになられたのですか!」


 検事のケンジが驚いて尋ねたのを、殿様のケンジは威厳ある声で返したのだ。


「ああ、賢者のケンジが先ほど我に薬を盛ってくれたのだ。そのおかげで歩ける程度には体調が良くなった」


 この発言のあと、賢者のケンジが殿様のケンジに軽く目配せをしたのだ。殿様のケンジはうなずくと、息を大きく吸い込んで話を始めたのだ。多分事件の真相を話してくれるのだ。みんなちゃんと聞くのだ!


「皆のものよく聞け。プライドの手前隠していたのだが、我は前から疫病を患っている。数日前に倒れたのも疫病が原因だ。アライさんは何もしていない」


 ほらー!やっぱりアライさんは悪くなかったのだ!

 検事のケンジも探偵のケンジも何もしていないアライさんを悪者扱いしたのだ!こーいうのをごめんなさい案件というのだ!早くアライさんにごめんなさいするのだ!

 勝ち誇った顔で検事のケンジを見ると、検事のケンジはギョッとした顔でアライさんの後ろを見たのだ。

 アライさんも後ろを振り返ってみると、殿様のケンジが気を失って、剣士のケンジにもたれかかっていたのだ。


「殿様のケンジ様!!!どうなされたのですか?!」


 周囲のざわざわが大きくなると同時に、みんなが殿様のケンジの周りに駆け寄っていったのだ。

 みんなは団子になって殿様のケンジを呼びかけているみたいだけど、殿様のケンジの返事はないようなのだ。そんなことをしたって疫病は治らないのに!こうなったらアライさんが殿様のケンジを治さなきゃなのだ!

 そう思ってアライさんは団子の中に入ろうとしたんだけど、アライさんはケンジたちの前では力が弱い方なので簡単に弾き飛ばされてしまったのだ。


「どいてください、どいてください、私が診ます」


 少し遅れて賢者のケンジが団子をかき分けていったのだ。なるほどああ言えば道を開けてくれるか。アライさんもああ言えばよかったのだ。


「離れて!皆さん離れてください!」


 そのうち団子の中心にたどり着いたであろう賢者のケンジは大声で言ったのだ。するとあれほど固く殿様を取り囲んでいたケンジたちは散り散りになって、アライさんからでも殿様のケンジを見られるようになったのだ。殿様のケンジは本当に力なく倒れていたのだ。


「まずいです……このままでは死んでしまう……また無理をしたみたいだ」

「なんだって!?」


 殿様のケンジを診た賢者のケンジは、どよめきの中周囲を見渡して、アライさんを見つけ出したようなのだ。そして真剣な顔で言ったのだ。


「アライさん!」

「よーし!出番なのだ!」


 久しぶりにマッサージのお仕事ができるのだ!



 〜〜〜〜



「ウェイッ!何を始める気だ!」


 アライさんが殿様のケンジをマッサージしようとしたら、検事のケンジが慌てて止めに入ってきたのだ。


「うるさいのだ!黙って見てるのだ!!」

「なんだと貴様!」


 検事のケンジは脇差しに手を掛けながら言ったけど、賢者のケンジが止めてくれたのだ。


「うるさいです。黙って見ていてください」

「くっ……」


 検事のケンジは脇差しから手を離したのだ。

 ほぼ同じことを言ったはずなのにどうしてこうも反応が異なるのだ?

 まあいいのだ。

 とっととマッサージを始めるのだ。

 こんな大勢の前でやるのは初めてだけどがんばるのだ。


 まずは殿様のケンジをうつ伏せにして、腰を揉んでみるのだ。

 殿様のケンジの腰は予想以上に硬かったのだ。腕も、肩も、太ももも、どれも今まで揉んだ中で一番硬かったのだ。

 それだけ苦労を重ねてきたということなのか?殿様なんて偉そうにしているだけだと思っていたけど、まあ偉そうなやつには偉そうなやつなりの苦労があるということなのだろうな。そういうことにしておくのだ。


「はい終わりなのだ」


 アライさんはマッサージを一通り終えたのだ。ほどなくして殿様のケンジは起き上がったのだ。その顔ははじめて会ったときの疲れ切った青い顔ではなくて、血色のよくて力強い顔だったのだ。

 殿様のケンジは顔を上に上げると、突然大きな声で叫ぶのだ。


「がおおおおおお!!!」


 一瞬場が静まり返ったけど、すぐにわあわあと、殿様のケンジを称賛する歓声が上がったのだ。

 やれやれ。アライさんは悪くないと分かったし、殿様のケンジの隠していた病気も治ったし、これにて一件落着なのだ。

 って、うわあ!

 気づくとアライさんは周りをケンジに囲まれていていたのだ。

 な、何なのだ!?

 アライさんが身構えるとケンジたちは一斉に飛びかかってきて、その中でアライさんはもみくちゃにされて、仰向けに倒されたのだ。

 アライさんは精一杯暴れようとしたけど、抵抗は無意味だったのだ。だから大声で叫んだのだ。


「やめるのだ!アライさんは何もしていないと分かったろ!こんなことされる道理はないはずなのだ!」

「いえいえ、道理ならしっかりありますよ」


 群のなかにいた賢者のケンジが言ったのだ。な、賢者のケンジもグルだったのか!?


「せーの!」


 威厳がありつつ、どこか嬉しさも中にあったその声の主は殿様のケンジだったかもしれないのだ。ともかくその音頭が聞こえた瞬間、アライさんの体は宙に浮いたのだ。


「アライさん!アライさん!アライさん!アライさん!アライさん!」


 アライさんは着地したかと思えばまた上に押し上げられて宙に浮き、落ちたかと思えばまた上に押し上げられて宙に浮きを何十回も繰り返しされたのだ。

 つまるところこれは『胴上げ』というやつみたいなのだ。アライさん最初はびっくりしてなにが起こっているのか分からなかったけど、されてるうちに楽しくなってしまって、みんなもすごく楽しそうだったからアライさんも楽しくなったのだ。文章がおかしいかもしれないけど、とにかくそれくらい楽しかったのだ。


 何回浮いたかは数えていなかったけど、最後はしっかり抱えられて、ゆっくりと地面に立たされたのだ。

 アライさんは久しぶりの地面で多少ふらついて転んでしまったけど、すぐに手が差しのべられたのだ。その手は、殿様のケンジだったのだ。

 アライさんが手をとって立ち上がると、殿様のケンジは言ったのだ。


「アライさん。ありがとう」


 アライさんはアライさんのできることをしたまでなのだ。でも、感謝されるのは悪い気はしないのだ。


 差しのべられた手は、固い握手に変わったのだ。

 そして周りから割れんばかりの歓声と拍手が上がったのだ。

 これを見た賢者のケンジが微笑みを浮かべながら言ったのだ。


「アライさん。あなたは間違いなくこの世界の救世主ですね」

「……?」

「人気者ってことですよ」


 どうやらジャパリパークな嫌われものだったアライさんは異世界イチの人気者になれたようなのだ!

 めでたしめでたし、なのだ!




 〜〜〜〜




 ……じゃないのだ!!

 いい話風に締めても、まだフェネックがどこにいったかわかってないのだ!白い客を見つけないとなのだ!


 もうちょっとだけ続くのだ!!

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