第7話!! ムラに着いたのだ!!









「ケッコン!?……ってなんなのだ?」


 アライさんは賢者のケンジが言う言葉を聞き返したのだ。


「結婚は結婚ですよ。アライさん」


 アライさんの顔の近くにズイッとケンジの顔が迫るのだ。

 な、そんなにみられると恥ずかしいのだ。


「あなたはとても美しい。僕がいままでに会ったどの女性よりも、です」


 じょ、じょせい?よくわからないのだ。

 コイツなにが言いたいのだ?


「僕と一緒にいてくれませんか?」


 ケンジは真剣なトーンで言ったのだ。

 つまり結婚とは、一緒にいることだというのだな。

 アライさんは今までずっとひとりだったけど、たまには一緒にいるやつがいても悪くないと思うのだ。


「分かったのだ。結婚するのだ」

「ほ、本当ですか?」

「アライさんはウソはつかないのだ」


 ケンジはなんかすっごく喜んでいるのだ。

 そんなおおごとじゃなのに、大げさなやつなのだ。

 まあそれはそれとして、アライさんは下流に行かなきゃいけないのだ。だからケンジに言ってやったのだ。


「よし!ケンジ!アライさんに付いてくるのだ!」


 アライさんは川に沿って進もうとしたのだ。

 でも、ケンジがそれを引き止めたのだ。


「アライさん!僕の村へ来てくれませんか?」


 ケンジはそう言ってアライさんの腕を掴んで、アライさんが来た道を戻ろうとするのだ。

 アライさんは振り払おうとしたけど、ケンジの力は意外と強くて、アライさんはそっちに引きずられてしまったのだ。

 でもそっちにはアライさん行きたくないのだ。だから大声で言ってやったのだ。


「ちょっと待つのだ!そっちはさっき通ったのだ!何も無いのだ!!離すのだ!」


 アライさんが言い切る前にケンジは力を弛めたので、アライさんは解放されたのだ。

 アライさんは続けて言ったのだ。


「アライさんは下流に行きたいのだ!だからそっちじゃなくてこっちに行くのだ!!」


 アライさんは川下をビシッと指さしてケンジを見たのだ。でもケンジはなんだか困った顔をしてみているのだ?どうしたのだ?


「下流って……アライさん。それは危ないですよ?」

「なんでなのだ!?」

「このあたりはひとつ目縛りの巣になっているからです」


 ひとつめしばり?何なのだそれは?

 ケンジに聞いたら答えてくれたのだ。


「先程アライさんが襲われていた妖怪のことです。というよりアライさん。一つ目妖怪を知らずにこのあたりを歩いていたのですか?」


 ケンジは親切に教えてくれたのかも知れないけど、アライさんはバカにされたような気がしてならなかったのだ。

 とはいえケンジがいなければアライさんは今ごろ水を飲み過ぎて死んでいたのだ。

 つまり命の恩人なのだ。

 命の恩人のいうことは、聞いておかなくちゃいけないのだ。


「うぅ……ごめんなさいなのだ。できれば教えて欲しいのだ……」


 そしたらケンジは笑って言ったのだ。


「いえいえ。村に着いたら話しますよ」


 アライさんは村よりも下流に行きたかったけど、ケンジはどうしても村へ連れて行きたいみたいなのだ。まあアライさんお腹タプタプだし、このあたりのことも一つ目妖怪のことも分からないので、ひとまずケンジの言うことを聞くことにしたのだ。

 アライさんは頷いたのだ。


「来てくれるのですね!良かった〜!」


 ケンジは安心した顔で言ったのだ。

 でも一応クギを刺しておくのだ。


「そのかわり!村に着いたらいろいろ教えるのだ!」

「分かってますよ。こっちです」


 アライさんはケンジに手を引っ張られながら、付いて行ったのだ。




 〜〜〜〜




 ―フモト村


「着きましたよアライさん。ここが僕の村です。」


 アライさんが着いたところには屋根に茶色い草を敷いたおうちがたくさんあったのだ。こんなもの見たことないのだ。

 アライさんが眺めていると、その中でもひときわ大きなおうちを指差しながらケンジが言ったのだ。


「あそこが僕の家です。さあ行きましょう」

「分かったのだ」


 アライさんは言われるがままケンジに付いて行ったのだ。


 ケンジとその大きな家の門の前まで行くと、なぜかこいつは深呼吸をしはじめたのだ。


「何なのだ?具合でも悪いのか?」

「いえ、フィアンセを家に上げるので、少し緊張しているんです」


 フィアンセ?よく分からないけど自分のおうちの前で緊張するのは良くないのだ。仕方ないからアライさんがマッサージをしてやるのだ。


「ふわあああ!」


 アライさんがケンジの腰をもみもみしたら、ケンジが顔を真っ赤にして変な声を上げたのだ。


「や、やめてください!そう言うのはまだ早いですよ!」

「何訳わからないこと言ってるのだ!ただのマッサージなのだ!」


 アライさんが反論すると、ケンジは腰に手を当てて

 つぶやいたのだ。


「あれ?腰がすごく軽い……」


 どうやらアライさんのマッサージは効果絶大!だったようなのだ。ケンジはアライさんに感謝するのだ!

 アライさんは腰に手を当ててふんぞり返ったのだ。

 そしたらケンジはアライさんの肩を持って言ってきたのだ。顔が近いのだ。


「も……もしかしてあなたの術ですか?」

「術?」

「そうです術ですよ。私が炎を出せるみたいに、アライさんは人の体調を治す力があるんじゃないですか?そうですよね?」

「そうなのか?」


 アライさんはちょっと考えてみたのだ。

 そういえば前にハカセに聞いたことがあるのだ。

 アライさんには『マジカルウォーターハンド』っていうみんなを元気にするフレンズの技があるって。

 でもジャパリパークではいつも独りだったから発動する機会がなかったのだ。ここに来て使うことになるなんて、いやはや感慨深いものがあるのだ。


「まあアライさんにはそういった能力が備わっているのだ」

「そ、そうなんですね!!これはすごい……」


 ケンジはそう呟くと、大急ぎで引き戸を開いて、大声で言ったのだ。


「じい!今帰ったぞ!」


 そうするとすかさず別のやつが出てきたのだ。ケンジに比べると背が低くて、シワだらけで、みすぼらしい感じがしたけど、ケンジと同じでお耳も尻尾も見当たらなかったのだ。

 アライさんがそいつを見ていると、ケンジが紹介を始めたのだ。


「アライさん、紹介します。こちらは召使のケンジさんです」

「よろしくどうも、ケンジです」


 は?こいつもケンジって言うのか?

 背が高い方もケンジだから、呼び分けが付かないのだ。仕方ないから、大きい方を賢者のケンジって呼ぶことにして、しわしわの青いほうを召使のケンジって呼ぶことにするのだ。

 そんなことを考えているうちに、賢者のケンジが先におうちの中に入っていったのだ。

 アライさんも付いて行こうと駆け寄ったら、召使のケンジに怒られてしまったのだ。


「これ!家の中に入るときは靴を脱ぎなさい!」


 靴?何なのだ?

 召使のケンジが指差すところには、アライさんの足があるのだ。

 もしかして、これって取れるのか?


 アライさんは足元を覆っている黒いやつをなんとか引っ張ってみると取れたのだ。

 これは新発見なのだ。

 アライさんはすごいことを見つけたのだ!

 賢者のケンジに報告しようと駆け寄ったら、また召使のケンジに怒られたのだ。


「コラ!廊下は走りなさるな!!」

「はぁ!?なんでなのだ!」


 アライさんはそんなルール聞いてないのだ。

 勝手に自分ルールを押し付けるなんてよくないことなのだ。

 そう思って反論をしようとすると、賢者のケンジが間に入って召使のケンジに言ったのだ。


「じい。僕の婚約者だ。優しくしてあげてくれ」


 そしたら面白いことに召使のケンジがタジタジになったのだ。


「ええ!!?ぼっちゃまの婚約者!?……ゴホン。おぼっちゃまがそう言うのなら仕方ありませんな」

「ああ。頼む」


 どうやら召使のケンジは賢者のケンジの言うことを聞くらしいのだ。


~~~~


 そのあと、賢者のケンジはアライさんを一番奥の部屋まで案内してくれたのだ。


「アライさん。こちらに僕の母がいます」

「はは?」

「僕の母は疫病で苦しんでいます。それで先ほどまで薬草を取りに森に行っていたのです」

「そうなのか」


 ケンジは急にアライさんの手を取ったのだ。


「そこでお願いします!!アライさん!母の疫病をあなたの回復術で治してほしいのです」


 そんな必死な顔で言われたら断るわけにもいかないのだ。

 減るもんじゃないしアライさんのフレンズの技で元気にしてやるのだ。

 アライさんは了解なのだと伝えると、ケンジは引き戸をゆっくりと開いたのだ。

 アライさんは扉の向こうへ入ったのだ。なんか草っぽいにおいがする部屋なのだ。

 その広い部屋の中には、やわらかそうな敷布団で寝ている顔色の悪いやつがいたのだ。

 賢者のケンジはそいつに声をかけるのだ。


「母上、大丈夫ですか?」

「ケンジかい…?」


 そしたら顔色の悪いやつはか細い声で賢者のケンジの名前を呼んだのだ。

 これに対して賢者のケンジは嬉しそうな顔で言ったのだ。


「母上、今日は報告があります。婚約者を連れてきました。アライさんです」


 アライさんはご紹介に預かったので軽くお辞儀をしたのだ。

 そしたらベッドの中のやつは微笑んだのだ。


「母上言ってましたよね。死ぬ前に僕の嫁が見たいと。でも、もう大丈夫です。彼女が母上を治してくれます」


 賢者のケンジはアライさんに目配せしたのだ。

 わかっているのだ。フレンズの技を使えばいいのだろ?

 アライさんは布団の近くまで行って、ケンジの母上をさすったのだ。

 すると、不思議なことが起こったのだ。

 ケンジの母上の白かった顔はみるみる赤みを帯びてきて、ついに布団から起き上がったのだ。


「は…母上!?」

「ケンジ、アライさん。ありがとう。とても体調がよくなったわ」

「母上ぇ~~!!」


 賢者のケンジはケンジの母上に涙ながらに抱き着いたのだ。

 一件落着って感じなのだ。

 アライさんが二人を見ていると、賢者のケンジがアライさんの手を取って言ってきたのだ。


「か、神の手だ……神の手ですよアライさん!!」


 賢者のケンジはアライさんの腕をぶんぶん振り回して言ったのだ。

 急に何なのだ?

 ……でも悪い気はしないのだ。

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