第18話!! VS.検事のケンジなのだ!!
「アライさん。面会だ」
「……分かったのだ」
アライさんは門番のケンジに連れられてお城の地下にある階段を登るのだ。
うぅ……どうしてこうなってしまったのだ……?
あの後殿様のケンジは死んでいないことが分かったのだ。でも未だに目を覚まさないみたいで、アライさんにはサツジンミスイノヨウギがかけられているらしいのだ。よくわからないけど、とても悪いことみたいなのだ。
「入れ」
「わっ」
アライさんは門番のケンジに背中を押されて、部屋の中に入れられたのだ。そこにいたのは盗賊のケンジと寡黙のケンジだったのだ。
アライさんが入るやいなや、盗賊のケンジが詰め寄ってきたのだ。
「おいアライさん!なんでこんなことをしたんだ!」
「違うのだ!アライさんは料理を作っただけなのだ!殿様のケンジが勝手に倒れたのだ!!」
「……それは本当なのか?」
「アライさんは嘘をつかないのだ」
アライさんは盗賊のケンジの目を見て言ったのだ。盗賊のケンジもアライさんを真剣な眼差しで見返してくるのだ。
「はあ……。最初から分かっていたぜ。アライさんがそんなことするはず無いもんな」
「盗賊のケンジ……お前は信じてくれるのか?」
「当たり前だ!アライさんを助けてやりたい」
「助けてくれるのか!?」
「ああ。だが、今すぐは無理だ。裁判に勝たないとアライさんは捕まったままなんだ」
「そ、そうなのか」
その裁判?というやつに勝てば開放されるのか?盗賊のケンジも手伝うということは、一緒に裁判に出てくれるということなのだな?早く始めるのだ!
「まあそう焦るな。実はケンジ様はお前の弁護人になろうとしたんだが、寡黙のケンジに猛反対されちまってな。前科があると発言力が落ちるって。……そう言うわけで、その道のプロにアライさんを弁護してもらうことにした。入ってくれ」
盗賊のケンジが誰かを呼んだのだ。するとアライさんが入ってきたのとは反対の扉から新しいケンジが現れたのだ。
そいつは黄色いマフラーを身に着けた背が高いやつだったのだ。
「はじめまして。僕は探偵のケンジだ。よろしく」
「探偵?」
「そう。何かを見つけたり、本当のことを調べたりするのが僕の仕事さ」
「ほぅそうなのか。アライさんは……」
「待て!僕が君の素性を当ててみせよう。その耳のアクセサリー、甲高い声、白い肌。これらのことから勘案するに君は……ヤギだな!」
「全然違うのだ!!」
ホントにこいつ大丈夫なのか!?アライさんは心配になってきたのだ。
「ま、まあ、違うことは分かっていた。そうだ。君は裁判初めてだろう?僕が君の置かれている状況を大雑把に説明しよう。まず、この世界にはいわゆる法律というものはない。軽く手続きを決めているだけだ。だから裁判は全て判例……つまり過去の裁判の結果に基づいて行われるんだ。君の容疑は殺人未遂だから、過去の殺人未遂事件の裁判結果と比べられるというわけだ。殺人未遂事件の刑罰は大方島流しってところなのだが、今回君が起こした事件となるとそうはいかない。なんせ被害者は殿様のケンジ、この世界で一番偉い人だからね。過去の殺人未遂事件の裁判結果だけではなく、国家転覆事件の裁判結果とも比較されるだろう。そして国家転覆事件は今までに一度しか起こっておらず、捕まった者は全員斬首刑になっている。未だに逃げてるやつもいて、未だに執行はされていないけど、例外なく判決は斬首だ。人相書きもたくさん出てる。このときは世論調査までして判決を決めた。大多数の人が斬首に賛成していた。君が起こした事件も今世界中で話題になっているから、また世論調査が行われるかもしれないけど……」
「のだあああああああああ!!!長いのだ!!簡潔にまとめるのだ!!」
なんだって言うのだ?!面会の時間は限られているというのに、どうしてコイツは一人で長々と話すのだ!
「ご、ごめんよ。僕としたことが」
探偵のケンジは謝ったのだ。アライさんは優しいから許してあげるのだ。
「つまりどういうことなのだ?」
「この裁判に負けると、君は間違いなく殺される」
「はあ!?」
アライさんは、びっくりしてしまったのだ。なな、なんで料理を作ってあげたのに殺されなければならないのだ!こんなの絶対おかしいのだ!アライさん裁判はよくわからないけど、お、おかしいことは分かるのだ!
「そのためにも君の無実を証明しなければならない。事件の日のこと、詳しく聞かせてくれないかな?」
「わわわわ、分かったのだ……しょ、正直に話すのだ……」
アライさんは料理を作ったときのことを詳しく話したのだ。最後まで話したところで、探偵のケンジが口を開いたのだ。
「……料理番のケンジが犯人っぽいな」
「何ぃ!?」
コイツなんてことを言い出すのだ!料理番のケンジは顔とか体つきは怖いけど、根はすごくいいやつなのだ!誰かを殺そうとするなんてありえないのだ!
「そんな顔しないで僕の話を聞いてくれ。まず、殿様のケンジは汁に口を付けた瞬間に倒れた。つまり毒は汁に入っていたということだね。では汁に毒を入れたのは誰なのか。これは普通に考えてその汁を一人で見ていた時間がある人、ということになるはずだ。人が見てる間に毒を入れるなんて難しいからね。料理番のケンジはアライさんが海水を取りに行っている間、お湯を沸かしていたと言っていた。一人になったその間に鍋に毒を入れたというわけだ!だから犯人は料理番のケンジに違いない!」
「そんなわけないのだ!」
「そもそもアライさんがやっていないなら、犯人は料理番のケンジしかいないよ!」
「それでも違うのだ!料理番のケンジはいいやつなのだ!アライさんがやけどしそうになっているところを救ってくれたのだ!命の恩人なのだ!盗賊のケンジもなんとか言うのだ!」
「……探偵のケンジの話は筋が通っている……ケンジ様も犯人はそいつだと思うぜ」
「そんな……」
「君は代わりに死にたいのかい?」
そう言われると、アライさんは何も言えなくなってしまうのだ。しばらくうつむいていると、門番のケンジが面会時間の終了を告げてきたのだ。まだ納得していないのに……。さり際に盗賊のケンジが言ってきたのだ。
「裁判は明日だ。それまでにできることはこちらでやっておくからアライさんはしっかり休んでおいてくれ」
「わ、分かったのだ」
アライさんは振り返りながら面会室を出たのだ。
〜〜〜〜
「起きろ。裁判が始まる」
……?もう朝なのか?
門番のケンジに急かされてアライさんは牢屋から出たのだ。そのままアライさんは彼に連れられて歩いて行くのだ。
「なあ、門番のケンジ。殿様のケンジはまだ生きているのか?」
「あぁ、生きてはいるが目を覚まさない。昨日と同じ状況だ」
「寝てるだけということはないのか?」
門番のケンジは眉間にシワをよせてそのまま黙ってしまったのだ。その後はいくら話しかけても何も言わなかったのだ。
そのうちアライさんはやや広い中庭のような場所に連れてこられたのだ。敷き詰められた砂利の中央に簡素なゴザが一枚敷かれていて、アライさんはその上に座らさせられたのだ。ゴザが薄いから膝に砂利が食い込んできて、ちょっと痛いのだ。
周りを見渡すと、後ろには大きな人だかりができていてざわざわ騒いでいたのだ。時折アライさんを呼ぶ声も聞こえるのだ。また、右側には検事のケンジが、左側には探偵のケンジと盗賊のケンジが、そして目の前にはどこかで見たことがある二人組がいたのだ。あ、そうなのだ。たしかうどん屋でおかわりを注文していたあの二人組なのだ。普段はここにいるのだな。しばらくすると、そのうちの片方が偉そうに宣言したのだ。
「静粛に。これより、裁判を始めるのです。判決は私裁判長のケンジが行うのです」
「助役は私裁判官のケンジが務めるのです」
「それでは検察。事件の概要を話すのです」
促された検事のケンジが話を始めたのだ。
「オーケー。被告人は3日前、自らこの城へ申し出て来てうどんを作ると言い出した。城下町で有名なうどん店の者だと聞き何も疑わなかった俺は料理小屋に案内して、料理番のケンジをお供につけて被告人にうどんを作らせた。約四時間後、うどんは完成。完成したうどんは得体の知れない匂いがしたが、被告人は薬膳であるから成分には問題ないものと主張した。そしてそのまま殿様のケンジに献上したところ、殿様のケンジはうどんに口を付けた瞬間に倒れ、目が醒めぬまま現在に至る、というわけだ。被告人はうどんの中に毒を入れていたに違いない。殺人未遂及び国家転覆の判例に鑑み被告に斬首刑を求刑する!レッツジャスティス!」
「この概要に異議がありますか」
「あるのだ!!」
アライさんは大声で言ったけど、左にいた盗賊のケンジが人差し指を鼻につけて、シーッて言ってきたのだ。それは今までに見たこともないほど必死な顔だったのだ。今アライさんは文字通り必死な状況なので、どうやら黙っていたほうがいいみたいだと判断したのだ。
アライさんの代わりに探偵のケンジが言ったのだ。
「あります。そもそもアライさんには動機がありません」
「……というと?」
「アライさんは誰かに濡れ衣を着せられたのです!」
探偵のケンジは検事のケンジをビシッと指さしながら言ったけど、検事のケンジはそういうのは慣れっこみたいで、毅然とした態度で静かに言ったのだ。
「証拠は?」
「アライさんの証言です!」
「リアリィ?『アライさんはこの城の正面から堂々と入って来た』んだぞ?さらに『立ちふさがったら強行突破しようとしてきた』そうだ。これは門番のケンジ二人が言っている。つまり切羽詰まった目的を持ってこの城へ来たんだ。で、結果として毒が入った料理を作った。人相書きがどうのとか言っていたが、何時でも発行できる人相書きが切羽詰まった目的になるとは考えにくい。結局目的は殿様を殺すことだったんだ」
「弁護側、反論はありますか」
「……」
探偵のケンジは絶望的な顔をしていたのだ。例えるなら一生懸命作ってきた積み木のタワーを一足で蹴られてしまったような、そんな表情だったのだ。
その後しばらく沈黙すると、探偵のケンジは蚊の鳴くような声で言ったのだ。
「……アライさんは毒を用意できません」
「リアリイ?アライさんは薬屋で働いていたことがあると聞いている。そこで得た知識を使えば容易いことだと思うが」
これを聞いた探偵のケンジは変な目でこちらを見てきたのだ。例えるなら砂の……いや例えるまでもないのだ!コイツアライさんを疑っているのだ!
こんな奴に任せておけないのだ!こうなったらアライさんは自分で反論するのだ!
「アライさんはやってないのだ!」
「オウ、証拠は?」
「やってないと言ったらやってないのだ!」
「イグザクトリィ。ないということを証明することは難しい。だからこちらからやったことを証明するのが筋というものだ。アライさん、お前はうどんが完成する直前、小屋から出たそうだな」
「……出たのだ」
「そして山側の生け垣まで行ったのだろう?」
「……確かに行ったのだ」
「生け垣の付近でなにかごそごそしていたという証言が複数人からある」
「……ち、違うのだ!あれは生け垣を登ろうと」
「識者のケンジが言うには!生け垣にたくさん生えているヨウシュヤマゴボウ!この植物の実には神経系の毒が入っているそうだ!つまり殿様のケンジ様が急に倒れたのはこの植物の毒で起こったと考えられる!お前がそこで取って入れたのだろう!?毒を!」
「違うのだ!アライさんは海水を汲みに」
「オーノー!海水?それを料理にどう使う?ましてやそれでなぜ山側の生け垣を登ろうとした?言い訳にもなっていないぞ!」
「違うのだ違うのだ違うのだ違うのだああああ!!」
アライさんがどれだけ発言しようと、ことはどんどん悪い方向に向かっていったのだ。探偵のケンジの方を見てもうつむいているし、盗賊のケンジは泣きそうな顔で頭を抱えていたのだ。アライさんも泣きそうになってしまって、涙をこらえるのに必死になってしまって、もう何も言えなくなってしまったのだ。
そのうち裁判長のケンジが静かに言ったのだ。
「……機は熟しました。これ以上の審議は無駄でしょう。判決を言い渡します。被告人は明確な意思を持って殿様のケンジを毒殺しようとしました。昨年起こった国家転覆罪の判例にかんがみ、被告人を斬」
「ちょっと待ってください」
遮るように、後ろの人だかりから声がしたのだ。
その赤い服来たやつは息を切らせながら左側の席に入ってきたのだ。
アライさんがぼやけた視界で見てみると、そいつは疲れた笑顔で笑いかけてきたのだ。アライさんは知っているのだ。コイツの笑顔を、コイツの顔を!
「検事さん。ヨウシュヤマゴボウの毒は消化器で吸収されます。口をつけてすぐに倒れるなんてことは絶対にありません」
「……ホワット!?何だお前は!」
「僕は賢者のケンジ。アライさんの婚約者です」
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