第24話 会いに行く
巻上の熱気にあてられ、アムールトラは憔悴していた。宿舎に戻っても、冷たいシャワー浴びても、気力は萎えたままだ。
「ふううぅぅぅ」
壁に両手をついたまま、深く、長く息を吐く。シャワーは耳元でバチバチと囁いている。今日は色々なことがありすぎた。明日にはキョウシュウエリアから派遣部隊が戻ってくるという。派遣部隊も厳しい戦いをこなしてきただろうが、残留組も八面六臂の大活躍、というやつだ。
「休み、取れるかなぁ」
巻上のこともそうだが、野性解放のコントロールというのも神経をすり減らすものだ。今は心底、休みが欲しかった。それに、もう一度会いたい人がいる。
結局、アムールトラが休みを取れたのは一週間後だった。昨日はゆっくり惰眠を貪って、久し振りにスッキリした表情で、街に出る。記憶はおぼろげだったけれど、ヘビクイワシに聞いたから場所はわかっている。足取りは軽かった。
そのまま走って行こうかとも思ったが、タクシーを拾うことにした。欲しいものなど特になかったから、棒給の使い道としてはタクシーに乗る贅沢もいいだろう。
病院の外来棟はビニールシートに覆われて、傷痕は見えない。緑の多い郊外で、青いビニールシートは甚だ場違いだ。立ち入り禁止の札を横目に、入院棟へ。ここもセルリアンの傷痕は残っているはずだ。外来棟より優先して補修が始まっているのは、こちらの傷が浅いのもあるが、動かせない病人がいるからだろう。工作機械も、なるべく音の静かなものが選ばれているようだった。
「ちょっと、ここは立ち入り禁止…ああ!」
アムールトラを呼び止めた看護師が、素っ頓狂な声を上げる。
「あなた、あいちゃんね!まーちゃんがよく噂してて!この前もこの病院を救ってくれたって!まぁまぁまぁ!」
看護師はアムールトラの手を引いて、病院の中を早歩き。病院はたいてい複雑な造りになっているものだが、ここも御多分に洩れず複雑だ。どこをどう歩いたのかわからないうちに、アムールトラは個室の前に立っていた。
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