第30話 比較試験
巻上からの呼び出しは、二カ月後だった。アムールトラはその間も、ちょっとした休みをもらっては病院に通っていた。通っていると、まーちゃんがだんだん元気になってくる気がするのだ。
「それは、気のせいではなさそうだよ」
「どういうことですか」
「まあこれを見てくれ」
巻上が見せたモニターには、折れ線グラフがあった。いくつかの右肩上がりしており、変化には相関性を感じさせる。
「サンドスター検出器のデータと、バイタル、覚醒時間、免疫系の活性だ」
データは、アムールトラが訪問していない日も毎日とられていた。
「実はね、最初の方は私が取ったデータだ。これを見て何かわかるかい?」
「私が行った日は、サンドスター濃度が上がって、バイタルも活性化してる…」
「その通り。それとこの日と、この日ののデータ。この日は政府の許可を得て、試験的にサンドスター治療を行っている」
「改善してるけど…」
「そう、次の日には低下している。効果は一時的で長続きしない。この日はサンドスター治療の後、君が行った日だ」
「これは…」
そこから一週間にわたって、まーちゃんの状態は安定していた。
「私の存在が、影響している?」
「そう考えるのが自然だな」
「でも、私と話をしたから良くなってるだけかも。ほら、病は気からって言うし」
「サンドスター濃度は、気分には左右されないよ」
「それに、データが一人分じゃ、まぐれかも」
そう言いながらも、アムールトラの目には希望の光が射していた。
「抜かりはないよ。無菌病室、全員のデータをとっている。どの子も、君が行った日は多かれ少なかれ改善しているんだ。まーちゃんほどではないけど」
「他のフレンズでは?」
「うん。そう思って、無菌病室を三つに分けてもらっていたんだ」
アムールトラが行った病室、他のフレンズが行った病室、そして誰も行かない病室。比較試験に必要なことはわかる。だが、誰も行かない病室があるという残酷さに、アムールトラは巻上の研究者としての冷酷さを感じずにはいられなかった。
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