第43話 犠牲

「ただ…副作用の解消は、間に合いませんでした」

サンドスター治療の副作用といえば。

「記憶の、喪失」

「ええ」

アムールトラも見た。医療メーカーの研究者たちが、セルリアンから逃れるためにサンドスターカプセルに入り、そして記憶を失い幼児返りしたことを。

「人間なら、多少の幼児返りがあるかもしれない、という程度です。記憶は失われるでしょうが…ですがフレンズはそうはいかない。フレンズが幼児返りするというのはどういうことか」

アムールトラは思い出す。ガウガウ病にかかって記憶を失ったことを。そして野性解放の結果、理性を喪い、仲間に襲いかかったことを。

「理性を喪い、元の動物の思考に戻る」

「そう、予想されます」

「わかりました。ではお願いがあります。一番頑丈な、手枷を用意してください」

「手枷…そんな!」

まーちゃんの母親は、子供のようにしゃくり上げながら、アムールトラを抱きしめた。

「あなたは、そんなことしなくていいの。まーちゃんがこうなったのは、そう、運命よ。あなたが犠牲になることなんて、ないの」

抱きしめられる暖かさに、アムールトラはふと、自分の母親がいたなら、こんな感じだろうかと思った。

「犠牲ではないですよ、まーちゃんママ。私が、そうしたいんです。だって私もまーちゃんのこと、ママさんに負けないくらい大好きですから!だから任せてください。きっと、まーちゃんが治った後、ママさんにまた会えるまで、絶対に守ってみせますから」

「あいちゃん…」

アムールトラは優しく抱きしめ返すと、そっと体を離して微笑んだ。

「一度は忘れてしまうかもしれないですけど、きっと思い出してみせますよ。まーちゃんのことも、ママさんのことも。私、一度ガウガウ病で忘れたことも、ちゃんと思い出しましたから。大丈夫!」

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