第44話 パートナー
まーちゃんは、すぅすぅと、静かな寝息をたてている。顔色は青白いが、重い病気とは思えない。
「なに、サンドスターには身体を万全にする機能もあるそうだぞ。出てくるころには、きっと健康体だよ」
医師でない巻上は、きっとそのあたりに詳しくはないだろう。それでも、力付けようとしてくれるのがわかって、なにより脱出最終便を遅らせてまでここにいてくれるのが、アムールトラには嬉しかった。
破壊された外来棟跡地に建てられた、小さなコンクリートの、味気ない建物の中には、いくつかのカプセルがあった。巻上が直前まで手直しを続けたものだ。このカプセルには既にサンドスター結晶が敷き詰められ、患者とパートナーのフレンズたちが、一緒に入っていく。ここにいるのは、患者とフレンズ、わずかな医師と巻上、そして見送る家族だけだ。そして、最後に母親に抱かれて、まーちゃんがカプセルに横たえられた。名残惜しそうに、両親の指がまーちゃんの指に絡み、そっと離れた。
「私たちのことはわすれても構わない。けれど、きっと元気になってくれ」
「ええ…ええ!」
まーちゃんの父親は、座り込みそうな妻の肩を支えた。
「あいちゃん。よろしく、お願いします」
父親は深く頭を下げた。アムールトラは小さい頃にジャパリパークにまーちゃんと迎えに行った時の大きな背中を思い出した。ああ、なんと小さくなってしまったのだろう。彼はまだ若く、体格もいい方だ。だが、子供の病気が、家族にどれほどの負担と心痛を与えたのか。アムールトラは思わず、二人の肩を抱きしめた。
カプセルのフラップが閉まると、シュッと空気の抜ける音がして、完全に密閉されたことがわかる。
「さあ、最終便はもうギリギリです」
滅菌状態である必要がなくなった部屋に、基地司令が入ってきた。最後の民間人の脱出を見届けるのが、彼の使命なのだろう。
「行きましょう」
他の家族を促し、まーちゃんの父親は部屋を出る。そこには自衛官たちに混じって、フレンズ部隊が勢ぞろいしてるいた。
「24時間、ですね」
ジャガーが巻上に確認する。
「ええ。カプセル密閉後、サンドスターがセルリアンに検知できなくなるまで24時間かかるわ」
「聞いたかみんな!たった1日だ!護り切るぞ!」
「おおお!」
雄叫びが力強く響く。カプセルの中の子供たちが目覚めてしまいそうなほど、大きな声だった。
「結局行っちまいやがって。わかった。守ればいいんだろ」
ヘビクイワシは、拳を握り直した。
「パートナー、だからな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます