第34話 ガウガウ病
その日からアムールトラはサンドスター治療を受けることになった。ジャパまんを大量に食べるのにも限度があるし、ただでさえ人員不足だ。短期間での現場復帰が望まれた。
治療には、医療メーカーから押収したカプセルに、巻上が改良を加えたものが使われる。ガウガウ病の治療自体もまだ研究段階だから、ある意味実験台のようなものだ。
とはいえ、減少したサンドスターを補うために、サンドスター原石と患者を密閉容器に入れて放っておくという単純なものだ。原理のはっきりしない治療に不安はあったが、アムールトラは大人しく従った。
カプセルは狭い。大型のフレンズであるアムールトラが入り、サンドスター原石を詰めると、あとはさほど空間がない。身動きができないままは辛いかと思われたが、実際には外に出るまで一切の意識がなかった。
空気の抜ける音とともに、カプセルの蓋からサンドスター原石の光がこぼれる。ロックが外れ、蓋はゆっくりと押し上げられた。
「おはよう、アムールトラ。私がわかるかな?」
天井の照明が眩しい。
「アムール…トラ?」
アムールトラの目の前には、見知らぬ白衣の女性がいた。
「記憶に一部欠損がある、というのは想定内だ。フレンズならば大丈夫かとも思ったが」
「まだボーっとしている部分がありますが、少しずつ思い出してきた気もします」
「まあ、少なくともガウガウ病の方は大丈夫そうだね」
アムールトラの失語症状は改善しているようだ。
「まだ、何を忘れてしまったのかがわかりませんが」
「記憶というのは重層的で、繋がりを持つものだからね、一つの記憶が失われたとしても、周辺記憶が補足修復してくれるはずだ」
大丈夫…そのはずだ。部隊のことも、仲間のことも覚えている。巻上のことは、付き合いが浅いから忘れていただけで、そのうちはっきり思い出せるだろう。
「何か…大事なことを忘れているような気がします」
それがなんなのか、アムールトラにはわからない。
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