第33話 唸り

「かわいい!かわいいよ!」

まーちゃんは目を輝かせてベッドの上に起き上がった。

アムールトラは、ピンク色の可愛らしい服を着て、髪を緩くウェーブのかかったストレートにしている。イエイヌが最初に選んだゴスロリ?とかいうのは全力で拒否し、選んでくれたなかでは一番地味な服を買ったのだ。それでもいつもの毛皮より、ずっと華やかで余所行きな出で立ちだった。

「なんだか…恥ずかしいな」

「なんで?すっごく似合ってるよ!あっでも、そのリボンはしてくれてるんだね」

「覚えてたんだ」

それは、まだ幼少の頃。黄色い髪にきっと似合う、と誕生日にまーちゃんからもらったものだった。ほつれたところを、何箇所も不器用に修繕した痕がある。

「出動の時には、さすがに外してるけどね」

今では黄色というより褐色に近くなった髪色だが、黄色いリボンはむしろ引き立っていた。


「大丈夫かね」

巻上はアムールトラを気遣う様子を見せる。しかしそれが実験動物を見る目なのではないかと、疑ってしまう。

大丈夫だ、と言おうとしたが、何故か言葉が出てこない。

まーちゃんの見舞いから駐屯地に帰ってきた途端に、めまいを感じて座り込んでいたのを、ジャガーに連れてこられたのだ。

医務官の診察では特に問題はなかったが、どうやらあらかじめ巻上に依頼されていたようだ。

「やっぱりね。サンドスターが激減している」

うううう。

やはり言葉は出ずに、アムールトラは唸るばかりだ。

「最近、フレンズの間で発現が確認された病気、通称ガウガウ病だな」

「ガウガウ病?」

ジャガーが訊き返す。

「私もそっちは専門ではないが」

巻上は前置きして続ける。

「原因は定かではないが、要はフレンズのサンドスターが減少したのが原因かと言われている。例えば、セルリアンに喰われたとか。例えば」

巻上は言葉を区切った。

「例の病気の患者に、サンドスターを吸われたとか」

「例の病気…」

「それでも、サンドスターが減っただけなら、それこそジャパまんを大量に食べればいい。あれにはサンドスターが含まれてるからな。だが」

ジャガーは空調の効いた地下室で、額の汗を拭った。

「エンジンであるサンドスター受容器官が過剰に回転させられ、フレンズのけものプラズム体が疲労し、萎縮したとしたら」

「フレンズとしての、死」

「…かもな」

アムールトラは、ただ唸り続けるだけだった。

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