第9話 戦闘訓練
部隊の性質上、存在自体が秘匿されている。フレンズを兵士に、となれば倫理的にも政治的にも、大きな問題になるからだ。この頃、アニマルガールたちは「フレンズ」と呼ばれていた。ヒトの友人であり続けてほしい、という願いからだろうか。
ジャパリパークはある意味巨大な閉鎖空間だ。立ち入り禁止地域も多く、情報のコントロールはしやすい。
「今日の訓練はブリーフィングの通り、市街地戦だ。中型セルリアン3匹。状況開始」
部隊長のジャガーが静かに命じると、声も足音さえ出さずに部隊は散る。
今回セルリアン役になるのはアグレッサー部隊のベテランだ。実戦経験豊富で、セルリアンの動きにも理解が深い。
ジャガーのハンドサインが、アグレッサー右手方向への進出を支持している。
アムールトラは、サイン通り音もなく敵の背後にまわる。
セルリアン相手に銃器は役に立たない。フレンズによる肉弾戦だけが効果を持つから、いかにセルリアンの注意を引き、死角から弱点を突くかが主眼となる。ただし、最近ではセルリアンの動きも、あたかも連携をとろうとしているように見えることがある。そこに意思を感じるほど、セルリアンが次第に高度化している、というのが現場の認識だ。稀にではあるが、喰われる部隊員も出ている。出現頻度、数も増えているから、いずれ対処しきれない時が来るかもしれない。そうなってしまえば、戦力の増強が困難なフレンズ部隊だ。坂道を転がるように事態は深刻化していくだろう。
アムールトラからは見えるが、敵からは見えない位置にジャガーの手が出ている。ハンドサインは小隊主力の突撃で敵を引きつけて、攻撃力のあるアムールトラとカバが敵の背後から襲撃という、ブリーフィングでの作戦通りだった。
5秒前からカウントダウン。その時敵が動いた。いきなり振り向くと、アムールトラたちに向けて走ってきたのだ。意表を突かれた。
「え」
反応が一瞬遅れ、背後にもう一人の敵がいることに気づかなかった。既に第二小隊は無力化されていた。
「はい、ワンキル」
アムールトラは背中をポン、と叩かれた。セルリアンに喰われたわけだ。
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