第41話 希望と絶望
諸島には、既に1万人を超える居住者と、4万人以上の観光客がいる。米軍機と自衛隊機の飛行が優先されるため、空港にいた飛行機は既に観光客を乗せて飛び立っており、新たに到着する予定はない。そのため飛行機に乗りそびれた観光客は、ジャパリラインとバスによる輸送で港に向かうことになる。
「なあ、聞いたか?米軍の爆撃機が墜落したってよ」
「まじか、ニュースにはそんなのないぞ」
「これ見ろよ」
個人の撮影なのだろう。小さく写っているのは、かろうじて航空機だとわかる黒い影だ。そこに、何か青い雲のようなものがまとわりつき、急に推力を失った黒い影が堕ちていく。
「CGじゃないのか」
近年では、簡単に作れるようになったCG画像のフェイクニュースでPVを稼ぐ不届き者も多く、こういった映像の信憑性は薄くなっている。だが、この小さく荒い映像には、真に迫るような迫力があった。
「米軍の攻撃が、失敗したそうだ」
基地司令が、重々しく口を開く。ここには人間の自衛官たちだけでなく、フレンズもいた。
「それに伴い、諸島の閉鎖放棄が決定された。これは閣議決定であり、撤回はない。苦渋の決定だと言わざるを得ない」
司令はフレンズたちのほうな向き直り、深々と頭を下げた。
「君たちには、本当に申し訳ない。我々が不甲斐ないばかりに、君たちには苦難の道を歩かせることになる。知っての通り、フレンズはこの諸島から出てはフレンズの姿を保てない。よって君たちを連れてはいけないのだ」
「まあ、そうでしょうね」
ジャガーが腕組みを解く。
「まあ、セルリアンの大発生が、一時的なものの可能性だってありますし、我々は我々で、なんとかやっていきますよ」
「すまない」
見れば、この場にいる自衛官全員が、頭を下げていた。
「それに、我々はもともと、自由気ままに野性の中で生きる者たちです。元に戻るだけ、ですよ。なあ、みんな!」
おお!と、フレンズたちは雄叫びを上げる。
「では、最後の仕事ですね」
「人間全員の、無事の脱出、ですな」
フレンズたちの意気は高い。
「待ってください!全員、というわけにはいかないです。動かせない病人、例の病気の子供たちはどうするんですか」
アムールトラが声を上げる。
重篤な子供たちもいたはずだ。本土に連れて帰ったら、さらに悪化してしまうのではないか。
「それなんだけれど」
ブリーフィングルームに、巻上が入ってきた。
「本当に重篤な子以外には、治療法が見つかったんだ」
「本当ですか」
「ああ。簡単なことだった。フレンズとサンドスターと一緒にすると治療効果がある、というのは君のおかげもあってわかっていたけれど、なんでそうなるかはわかっていなかった。そしてそんな治療は、フレンズが存在できるこのジャパリパークでしか行えない。それでは世界中の子供は救えない」
患者を全員、ジャパリパークに連れてくることなどできない。ましてやこんな事態では。
「私は医師ではないから、物理学の知見から考えることしかできないが、フレンズでなくても治療効果のあるものがあるのではないか、と実験を重ねた」
アムールトラがガウガウ病にかかって、まーちゃんのことを思い出すまでの間、巻上は必死でじさを繰り返していたに違いない。巻上は決して冷酷などではなかった。冷静ではあっても、情熱をもって仕事に取り組んでいたのだ。
「結果、動物でもフレンズに近い効果があったんだ。できれば野性動物の方がいいが、犬や猫、小鳥や蛇でも効果はある。なんのことはない、動物を飼ったり、動物園に行くだけで効果があったのさ」
「じゃあ!」
「ああ、ほとんどの子供たちは本土に帰れる」
「ほとんど?」
「まーちゃんは、帰れない」
アムールトラは頭を殴られたような衝撃に、その場に座り込んだ。
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