愛の獣

油絵オヤジ

プロローグ あい

時々、思い出すことがある。初めて私の名前の意味を教えてもらった時のことだ。

子供だった私にそれを教えてくれたのは、保育園の先生だ。

「せんせー、なんでまーちゃんは、わたしのことあいちゃんっていうのー?」

「ああ、そうね。私が教えてあげたの、あなたの名前の意味をね。あなたの名前は、愛って意味なんだよ」

「あいってなーにー?」

「それはねー」

先生は、ちょっと考えてから答えてくれた。今ならわかるが、なかなかの難問だ。先生は確か、こう答えた。

「それはね、大好きな人の、喜ぶことをしてあげたい、という気持ちのこと、かな。あいちゃんの大好きな人、誰かなー?」

「わたしねー、せんせーだいすき!あとねー、しいくいんさんとかー、えんちょーとかー、あとね、あとね」

幼い私は、きっと真っ赤な顔をしていたのだろう。

「だれにもないしょだよ?」

「うん、指切りげんまん!」

「あのね。…まーちゃん」

先生はきっと微笑んだに違いない。懐かしい思い出だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る