特別と想い

「え……」

「悪いけどそれは出来ない」


 今まで一度も拒まれたことがなかったカノンはその言葉に困惑した。ただ自分は妹の様にではなく、ひとりの同級生として見てくれればいいだけと願ったはずなのに――。


「カノンは俺にとって特別だからな」

「……え?」

「今はそれ以上は……言えない」

「ど、どうして?」


 先程から翔太の発言がカノンは分からなかった。特別とはどういう事だろうか、特別視されるのが嫌なのに、特別扱いされては意味がないと。


「やだよ……やめてよ!」


 買い物袋を落とし、カノンは両手で顔を覆った。その頬に伝うものを隠す為に。


「か、カノン?」

「なんで、なんでなの! それじゃあ、いつまでたっても遠いままだよ!」

「……」


 感情が高まってるカノンに翔太は黙ったままでいた。今刺激すると、カノンの心が壊れてしまう。


「こんなに近くにいるのに、こんなに近い関係なのに……これじゃあ一生幼馴染のままだよ!」

「……」

「だから関係をリセットして、幼馴染じゃなくなればチャンスがあると思ったのに」

「……」

「翔太、特別視しないで……あの子にした笑顔をあたしにも向けてよ」


 モールの中で騒ぐ二人は注目を集めるが、一瞥した後に皆素通りする。翔太はその事にほっと胸を撫で下ろしていた。


「カノン、場所を変えよう。ここだと目立つ」


 カノンは頭を縦に振り、荷物を拾った翔太についていった。二人は少し離れた場所にある、休憩スペースで話を続けた。


「カノン、いつも俺がお前に向けてる顔は特別かもしれないけど、ただの特別じゃないんだ」


 横に並んで腰かけている翔太は、となりのカノンにそう告げる。カノンは話を聞いていた。


「本当はもう少し雰囲気があるところで言いたかったけど……まあいいか」

「?」


 何かを躊躇っていたが、ついに決心した翔太はカノンを見つめて口を開いた。


「好きだ、カノン」

「……へ?」


 それは突然で脳の処理が追いつかずに、カノンはぽかんとした顔になった。


「やっぱり恥ずかしいな……」

「えっと……」

「カノンは特別視しないでって言ったよな? それは無理だよ、好きだから」

「!」

「好きな子を特別に想ってるのに普通の子と同じにはできない」


 翔太のことをカノンはやっと理解した。好きな子を、他の子と同じに見ろと言われればそれは否定したい気持ちは分かる。自分も翔太を今更他人の様には見れない。


「それじゃあ……え?」

「はは、カノン。良かったら返事を聞かせてくれないか?」


 不意の連続で混乱するが、答えは決まっていた。カノンは翔太の手を握り想いを伝える。


「あ、あたしも!」


 翔太は頬を染めるが、笑顔でカノンの手を握り返した。

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