ラブコメ編

悪夢と不安定

 ※今回から数話カノン視点です



 夢を見た。翔太があたし以外の女の子と笑談している所を。あたしはそれを只々、遠くから見ているだけの夢……悪夢だった。


「なんでこんな夢……」


 お母さんの言葉を思い出す。


『この調子だと他の子に取られるのも時間の問題ね』


 あんなこと言うからこんな夢を見たのだ。しかしそれがもしかするとあり得る話だということは自分が一番理解していた。


「はぁ、朝から最悪……」


 布団から出て顔を洗いに洗面所へ向かう。苦虫を噛み潰したようなその顔に冷えた水道水を打ち付ける。脳が冷静さを取り戻し、思考も安定し始めた。


(あれは弱いあたしの心が生み出した幻影……気をしっかり持てカノン!)


 自身に喝を入れてリビングに向かい、朝食をとる。食べ終わり、一通りの準備が終わったところでインターホンがなった。


「翔太だ、お母さん行ってきます」

「気をつけて行くのよ〜」


 リビングでお母さんがそう言った。玄関前で言ってほしいが、気にせず玄関の扉を開く。


「おっす、おはよう」

「おはよう翔太」


 うん、今日も翔太は格好良い。いい匂いがしそうだ、嗅ぎたい……

 周りの女子は『顔は中の上』とか、『中の中』とかいうけれど、あたしの中では上の下はある。まあ好きな人補正がかかっているのだが……


「どうした?行こうぜ」

「あ…うん、行こう」


 うっとりしていたら翔太に声をかけられた。うぅ、声までカッコいい何て。


 というか、今日のあたしなんか…変だ。

 匂いを嗅いだ訳でもないのに、こんなに翔太に反応するなんておかしい。やはり朝の悪夢のせいだろうか。

 水で顔を引き締めても、心の不安は取り除けなかったのだろう。


(まさか正夢なんてないよね…)

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