脳内再生と現実

「カノン、ホントどうした?」

「え、なんのこと?」


 何か変なとこもでもあるのだろうか、朝はちゃんと姿見で確認した筈なのに。


「いや、浮かない顔してるから」

「ああ、実は朝ね……嫌な夢を見たんだ」


 内容は語るつもりはないが、翔太に心配して欲しかった。


「太って体重計壊したとか?」

「……違う」

「ぷにぷになお腹に絶望したとか?」

「違う、体重から離れて……」


 乙女に対して失礼なことを連続で聞いてくる翔太に呆れながら答える。


「好きなものを他人に取られたとか?」

「ち……」


 翔太が言っているのはおそらく食べ物の方だろう。しかしその言葉であたしは黙り、歩みが止まる。

 朝見た夢を思い出し、脳内再生が始まった。


「おい、ホント大丈夫かよ?」

「……大丈夫」

「そうか、なんかあったら俺に言えよ?」

「うん、でも何でもないから……」


 翔太の声で現実に戻され、再び歩き出す。

 心配してくれたが最後に嘘をついてしまった

 普段なら嬉しいはずの言葉だが、それでも不安は取り除けなかった。



 学校に着き、いつも通り授業を受ける。翔太とあたしは一番後ろの窓側とその隣の席だ。

 たまに翔太を横目で見ると、一応ノートは取っているみたいだが話は聞いていない顔で窓の外を眺めていた。


『めんどくせぇ』が人の形して学校生活を送っているのを見ていると、なんだか自分の悩みが馬鹿馬鹿しく思えてくる。


 昼休みになり、二人でご飯を食べようと席を離れた翔太を探すと、クラスメイトの女子と廊下で話をしている所を目撃してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る