正夢と外出

(あの子、翔太を中の中とか言っていた娘だ……)


 何を話しているのかわからないが翔太と笑談している。いつもあたしと一緒にいるから他の子といる時の顔など見た事がなかったが、とても楽しそうだ。

 そして翔太は申し訳なさそうな顔をしてゴメンのポーズを取った。するとその娘は在ろう事か、翔太の肩に手を置いて微笑む。


「!」


 それを目撃したあたしは直ぐに翔太に接近しようとするが止める。

 もう何度目かわからない悪夢の再現が目の前で起きたのだ。足が止まって前に出せない。

 いつも隣にいる翔太の人間関係を全て把握してはいない、あの子は翔太の何なのだろうか

 心の中が不安と恐怖で溢れかえり、あたしはその場を走り去った。


「……カノン?」




 学校が終わり翔太が声をかけてきた。


「帰ろうぜ、カノン」

「ごめん、今日は部活の助っ人の日で……」

「……そっか、じゃあ先帰るわ」

「うん、また明日……」


 また嘘をつく。確かに今日は助っ人に誘われたが断っていた。

 本当は帰りに昼間のことを聞きたかった。二人は付き合っているのかと。

 しかし怖くて聞けず、嘘をついて下校時間をずらした。今日は久しぶりに一人で帰る。




「ただいま……」

「遅かったわね、また部活の助っ人?」


 またも玄関前に立っていたお母さん。


「まあ、そんな感じ……」

「?」


 今日三度目の嘘を吐く。嘘をつくことに慣れてしまった。

 しかし誰にも迷惑はかけていない。心配はかけてしまったが……


「夕ご飯はカレーよ、ただもう少し掛かるから」

「……なら少し出かけてくる」

「どこに行くのよ、こんな時間に」

「ちょっとね」


 不審がられたが、昼休みの事が忘れられず夕食前に家を出た。

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