放課後 その3
「嘘!?」
シャツの襟をファスナーが噛んでしまい、うまく開けない。
「まずいまずい……」
折角ここまで隠し通してきた日課が、こんな状況を見られれば二度と行えなくなるのは火を見るよりも明らかだ。
なんとかしてファスナーを開かねばと思いカノンは大きく口を開いた。
「誰か、誰か居ませんか!」
近くに誰かいればこれを外してもらおうとする。
翔太の匂いにやられ、冷静な判断が出来ていないカノンはその格好のままトイレの外に出た。
「誰かこれを外して!」
「いいですよ」
後ろから声をかけられた。声質的に男子だろうと思うカノン。
「助かります、ありがとうございます!」
「いえいえ、困ってるようです……し?」
「あ……」
バッグが取れ、目の前に移る男子にもう一度お礼を伝えようとした。
しかし目の前にいる男子は今この瞬間、一番会いたくなかった人物だった。
「何してんだカノン?」
「翔太……」
終わった、終わってしまった。
この状況をどう説明しようが逃げ延びることは不可能だと理解する。
言い訳などしても余計に嫌われるだろう、なのですぐにでも謝ろうとした時だった
「ごめ……「はぁ…またこんなことやってたのか」
「……へ?」
「お前の匂いフェチもここまでくると賞賛に値するかもな」
額に手を当て顔を横に振る翔太に、どうやら怒っているわけではいと分析するカノンは恐る恐る尋ねた。
「翔太……怒らないの?」
親に怒られてた子のように俯きながらそう聞くと。
「そんな事で今更怒るかよ、今までだってやってたのわかってるし」
「も、もしかして…全部知ってたの……?」
「もちろん」
「う……うわあぁ! 最悪だ! 殺して! あたしを殺して!」
「いやいや、だから今更だって! 気にして無いからほら」
その場にしゃがみ込み、羞恥心でいっぱいになっているカノンに翔太は手を差し出し言った。
「遅くなったし、帰ろうぜ」
「じょ……じおぉたああぁ」
「お、おい……!」
涙で顔がくしゃくしゃになったカノンはその言葉に安心し、翔太に抱きつく。
そしてさりげなく久しぶりのゼロ距離エネルギー吸収を堪能をしていた。
「ンフー!」
「離せ、そしてさりげに匂いを嗅ぐな!」
(あたしが翔太に嫌われる様な事をしても、最後はいつも目を瞑ってくれる翔太のことが昔から……好き、とても大好き)
幼い頃からの気持ちが今でも変わらないと確信したカノンは、これからも嫌われない程度に甘えると決めるのだった。
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