放課後 その2

「早くしないと戻ってきちゃう」


 カノンは職員室に向かった翔太の後ろ姿を確認した後に彼のバッグを持ち、トイレに向かっていた。

 その行動が周りの生徒にバレぬよう、されど急がねば翔太が戻ってきてしまうと焦りつつ、日頃部活の助っ人で鍛えらた身体を使って移動する。


「急がば回れとか言うけど……善は急げだよね」


 そう言い聞かせてようやくたどり着いた学校唯一のプライベートスペースのトイレに入った。

 そして誰も近くにいないことを確認し、翔太のバッグのファスナーを開き匂いを嗅ぎ始める。


「これだよ、この匂いぃ……」


 カノンは日課の翔太エネルギーを摂取していた。

 この行為は小学生の頃迄は直接本体から摂取していたが、中学に上がった途端翔太の方から「恥ずかしいからやめてくれ」と言われしまう。

 しかしこの行為はすでにカノンからすれば生命活動の一つなっていた。


 朝に起き、三食ご飯を食べ、運動し、夜に寝る。

 このルーティンの中にさらにカノンは、翔太の匂いを嗅ぐというエネルギー摂取をせねばやつれてしまうのだ。


 それは中学時代の修学旅行の際に一日だけ男女別に別れる日があり、その日の夜に友人達にまるで過酷なダイエットの最中なのかと勘違いされるほどげっそりするほどに。

 翌日の朝、カノンはまだ寝ている男子達の寝室に無断で潜入し、翔太エネルギーを本体から摂取して九死に一生を得た。


「そろそろ戻らないと気づかれちゃうかな……」


 名残惜しいが戻らねばならない。そう思い、最後にとんでもない行動に出た。


「ラスト、キメるよ!」


 一度翔太エネルギーを摂取すると別人の様に豹変するカノンは、自分の頭をバッグに突っ込み、器用にも外から少しだけファスナーを閉めた。


「あぁ、翔太に包まれてる気分……」


 充満した翔太の匂いにトリップするカノンだが、時間が無いことに気付き急いで戻ろうとする。

 しかしファスナーがうまく掴めず、バッグから顔を出せずにいた。

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