お部屋

二人に心配されつつ食事を終えたカノンは、帰る前に翔太の部屋に寄れないかと聞いた。翔太はその事を不思議に思うが断る理由も特にない為、部屋に誘導する。

 翔太の部屋は二階にある。階段を上がって廊下の奥の「翔太」と書かれたプレートが掛けてある扉を開いて中に入った。


「久しぶりに入ったけど、何にも変わらないね」

「……まあな」


 翔太は少し間を置いてそう答えた。恐らくまた新しい成人向け雑誌が増えたのだろう。

 今度見つけて確認するとして、今回部屋に入ったのはそんなことをする為ではない。


 翔太の部屋には窓があり、中から顔を出すと下に屋根が掛かっている。それは人一人くらいなら乗れる強度で、隣の家…篠崎家のカノンの部屋の窓に向いている。

 カノンの部屋の窓も同じ構造で出来ており、よく屋根を伝ってお互いの部屋を行き来していた。その窓の鍵を外すのが目的だ。


「そういえば明日の宿題やったの?」

「あ、やってねぇ……後でやんないとなぁ」


 そう言った翔太は窓の反対側にある机の上のバッグを開け、宿題のプリントを机に広げ始める。

 カノンは翔太が宿題をやっていないであろうと思い、その話題を振れば十中八九バッグを広げてプリントを出すと予想していた。

 その隙を突いてカノンは窓の解錠作業を一瞬で行う。


「なぁ、提出のプリントってこれだよな?」

「え、ああ…そうだね」

「……何やってんだ?」

「いや、月が綺麗だな……って」

「見えるのはお前の部屋だけど?」

「う……うるさい、なんだって良いでしょ!」

「なんだよ、まあ良いけどよ……」


 不審な動きをするカノンに訝しい目をする翔太だが、気にしない事にしたようだ。

 とりあえずバレずに済んでホッと胸を撫で下ろす。後は家に帰って計画を実行するだけだ。


「それよりなんでまた部屋に行きたいなんて言い出したんだよ」

「あ、それはもう大丈夫 用事はもう済んだから」

「用事……って、もしかして位置がばれたんじゃ!」


 何か翔太が言っていたが耳に入れず、カノンは家に戻るといい部屋を出た。

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