休日と買い物
休日の土曜日、朝からカノンは出かける支度をしていた。
「これで大丈夫だよね……?」
今日は翔太と買い物に行くことになっている。半ば無理矢理組んだ予定だが、翔太の方も買うものがあるらしいので一緒に隣町の大型ショッピングモールに向かうのだ。
「うぅ〜なんか変かも、でも何が変かわかんないよ……」
イマイチ決まらない自分の格好に悪戦苦闘していると一階から声がした。
「カノン〜、何やってるの。翔ちゃん来ちゃうわよ!」
「分かってるよ! 今行くから!」
そろそろ約束の時間だ。そう思い、部屋から出て下に降りる。
「もう、何やってるのよ」
「だって中々決まらなくて……」
「大丈夫よ、翔ちゃんの為に可愛くしなくても元から可愛いわよ」
「べ、別に翔太の為じゃない……」
核心を突かれて照れてしまったカノンは顔を背けてそれを否定した。そんな態度をとった娘に恵美はため息をつく。
「カノン〜、あんまり素直じゃないと翔ちゃんに嫌われるわよ?」
「そ、そうかな……?」
(あら、今日はなんかしおらしいわね……?)
控えめな対応のカノンに疑問を抱くが、恵美は優しくフォローをいれる。
「大丈夫よ、はい。これ飲みなさい」
「ありがとう、お母さん」
白いマグカップに入ったコーヒーに、カノンは砂糖とミルクを入れてゆっくり口に運ぶ。
朝のニュースを観ながら飲んでいるとインターホンが鳴った。翔太が来た様だ。
「来たみたい、行ってくるねお母さん」
「はいはい、楽しんでくるのよ〜」
ニヤニヤした恵美に送られてカノンは玄関から出て行った。
「若いっていいわねぇ〜」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「お、お待たせ」
「俺も今来たところ……だ?」
「え! 翔太その格好!」
翔太の服装はグレーのパーカーに黒いパンツのストリートスタイルで、カノンも同じファッション……所謂『ペアルック』だった。
「まじかよ、流石にこれは恥ずいな」
「そ、そうだね。……でも、いいよ行こ?」
「カノンは良いのかよ? 俺とペアルックなんて」
「気にすると更に恥ずかしくなるだけだよ!」
「そ、そうだな。行くか」
お互いに服装を気にしない事にして、歩き出す。今日も天気快晴で道端の猫がのんびり日向ぼっこをしていた。電車を使わず隣町に向かうが、距離もそんなにない為に徒歩で移動する。
「今日もウンザリするほど天気良いなぁ」
「出かけるには丁度いいでしょ」
「まあな、風も気持ちし」
「ふふ、そうだね」
平日の登校時は汗だくになるが、今日はポカポカな陽気で頬をかすめる風も気持ちが良い。風に揺られる草花を見ていると、まるで春と思わせる陽気だ。
「今日は服を見に行くんだっけか?」
「そうだね、翔太の方は?」
「俺は最新作やゲームを買いにさ!」
「ホント好きだよね」
「ああ! 最高だ!」
いつもやっているゲームの最新作が今日発売らしく、それを買うのに翔太はとてもウキウキしていた。そんな翔太をみてカノンは笑みをこぼす。
「な、なんだよ。いいだろ! 好きなんだから!」
「!」
「ど、どうした……?」
好きというワードに反応してしまい、顔を赤くするカノンに恐る恐る翔太は聞いてみた。
「な、何でもない。ほら行くよ!」
「止まったのはカノンの方だろが……」
「うるさい! はい、誓いの言葉をいま詠唱して!」
「そ、外でか!? それは流石に恥ずかしいぞ」
「いいから早く!」
誓いの言葉とはこの前の一件で翔太とカノンが結んだ約束のことだ。カノンは自分に指摘した翔太にそれの読み上げを命ずる。
「常にカノンのことを考えます」
「はい」
「常にカノンを優先します」
「はい」
「常にカノンの……側にいます……」
「……」
「こ、困っているカノンを……必ず……助けに行きます」
「よ、よろしい……」
側から見れば付き合いたてのカップルに見えなくもないが、まだ幼馴染の関係だ。しかし二人の間柄は幼馴染を超えた関係の様に捉えられる。そのせいで翔太の方はカノンを妹の様に感じており、恋愛対象としてはあまり見ていないのだった。
(こんな約束より、彼氏彼女の関係になる方が難しいなんて……ハァ)
「どうした? ため息なんかついて」
「なんでもない」
話してるうちにショッピングモールに着いた。
「最初はカノンの買い物から見るか」
「うん、荷物持ちよろしく」
「はいよ」
カノンはこの買い物で翔太に自分を幼馴染ではなく、一人の女子としてみてもらう為に少し際どい服を選ぶ事を決めるのだった。
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