泣き虫な姫と王子さま

 カノンは信じられないものを見た。公園の入り口には街灯がひとつだけ存在し、そこに見知った者が立っていた。

 全力で走っていたであろうその人物は肩で息をしていた。服は汗ぐっしょり濡れており、そして只一点を見つめている。


「う……嘘」

「たく……心配させんじゃねえよ、恵美さんも心配してたぞ」


 ゆっくりとカノンの方に向かう者に、カノンは感動のあまりにブランコから立ち上がる。今一番会いたかった、聞きたかった声のもとに駆ける。


「うぅ……翔太!」

「おい!」


 その者……翔太の胸に抱きついた。汗で濡れている翔太の服がカノンの涙でさらに湿る。胸に顔を埋めて強く泣き付いた。


「うぅ……翔太、翔太が来てくれた! 一番来て欲しいタイミングで……あたしの所に来てくれた!」

「全く、寂しいなら家に帰れよな……」


 しばらくして泣き止んだカノンに翔太は伝える。


「カノン、さっき泣いてたようだったけどさ」

「……」

「朝言ったろ?なんかあったら言えって」

「……」

「言えない悩みだから、一人でこんなところで泣いてたんだろうけどさ」


 翔太は自分の胸にあるカノンの頭を優しく撫でる。赤子をあやす親のようにゆっくりと。髪型が崩れないようにふんわりと。そして続けていう。


「大方、昼間に俺がクラスメイトと話してる所を目撃して勘違いしたんだろ?」

「!」


 カノンの身体が少し跳ねる。それに少し笑う翔太は優しい口調で話す。


「はは、当たりか。アイツはスキンシップが多いからなぁ」

「……」


 言葉にされて恥ずかしくなってしまうカノンは、黙って翔太の話を聞いていた。


「あれはな、放課後カラオケに誘われたんだよ」

「え……」


 顔を上げてカノンは翔太を見る。ポカンとした顔を見せられた翔太は空を見ながら呟く。


「いつもカノンと一緒に帰ってるから、カノンが部活の助っ人の日を狙って誘ってきたみたいだな」

「……行ってきたの?」


 今日は一緒に帰って無い。だから翔太が放課後何をしていたか一切知らないのだ。翔太は顔をカノンに向けて笑顔で言う。


「いいや、断った」

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