スピリットチェンジ!〜訳あり少女は勇者の旅に同行します〜
阿井 りいあ
プロローグ
ちっぽけで広大な心の世界
──ある日、彼女の心がバラバラに砕け散りました。そこから、物語は始まったのです──
こんにちは、サナ。私はジネヴラ。私の他にも、仲間がいますよ。
何から話しましょうか……そうですね、まず、私たちは一体なんなのか、ですかね。
先に正解を言ってしまうと、私たちは魂の欠片です。
砕けた心が、大小様々な欠片となり、そのひとつひとつに魂が宿りました。それが、私たち。
小さな欠片の持ち主は、やはりすぐに消えてしまいそうなほど力が弱いです。逆に大きな欠片の持ち主は、相応の力を持っています。
ここで忘れてはならないのは、私たちが元々はひとつの心の一部である、ということです。小さな欠片といえど、消滅してしまえば二度と元には戻らないのです。ええ、とても恐ろしい事ですよ。
ならば、もう一度くっ付いて、元通りひとつの心になれば良いのでは? と思いますよね。けれどそうはいかないのです。
私たちは魂を得て、時間と経験を積み重ねるうちに成長してしまったのです。今ひとつになろうとくっ付いても、元の心の容量を超えてしまいます。
それに。
バラバラに砕けた器をくっ付けたところで、継ぎ目は残りますし、何より脆くなりますよね? 元通りになる事は不可能なんですよ。それこそ、一度全てドロドロにしてから成形しない限り。でもそれはもはや別物になります。
壊れたものは、もう二度と、前と全く同じように戻る事は決してないのですよ。心とて、同じ事です。
ですから、覚えておいてください。
私たちが生き延びるには、うまく共存していくしかありません。それがどれほど生き辛く、苦しかったとしても……
ごめんなさいね、サナ。私はついつい話が長くなってしまうんです。悪い癖だと思ってるんですけどね。なかなか直らないのですよ。
気を取り直して、次はこの場所について、お話しますね。ちゃんと要点だけを話せるといいのですけど。
ここは、随分と薄暗い場所です。そして果てが見えないほど広い。当然といえば当然ですね。ここはサナの意識の中の世界ですから。
いわば、心の中の世界。
想像力次第で広くも狭くもなりますし、明るさも然りです。
私たちはここで暮らしています。シェアハウスのようなもの、と言えばわかりやすいでしょうか。冒険者パーティーが一つの家を借りて、共に暮らすあれですよ。
それぞれが自分だけの部屋を持っていて、そこで各々生活をしているのです。部屋の中の様子は、当然部屋の主にしかわかりませんが……そうですね、私の部屋は殺風景だと思います。
自分の部屋なのにおかしな言い方をしてしまいましたね? けれど、仕方がないのです。私は滅多に自分の部屋へは行きませんから。
では、どこに?
それは、皆が集まることの出来る談話室。私はいつもここにいるのです。
皆がゆったりと座ることの出来る、半円形のソファ。その中心から少し前方に人ひとり分の光が当たっています。
その光の当たるスポットこそが、支配者の席。
今、身体を動かしている者がその場所に立っているのです。そう、サナ。今、あなたが立っている場所ですよ。
私はいつも、半円形のソファの中央に座り、いつも貴女を見守っているのです。この場所は、私専用と言っても過言ではないでしょう。別に他の場所でも良いのですけどね。最も管理しやすい場所だからこの席にいる、というだけの話です。
ああ、話が逸れましたね。
つまり、貴女の動きはこの場所からいつでも見ることが出来るという事です。プライバシーは……
それと、貴女の目を通して見ている景色は、スポットの上部に映し出されているので見ることが出来ます。どういう仕組みなのかまではわかりませんよ、私にも。ただ、そう見えるのだから、そうなのだと思ってください。心の世界、なんでもアリですね。
ということで、危険があればすぐに打開策を考えて対処できますから、安心してくださいね。
……そうは言っても、うまい具合に他の
……また、余計な事を長々と話してしまいましたね。つい話が冗長になってしまうの、どうにかしないといけませんね。
ですから、最も大切な事を言いますね?
サナ。貴女は、ただ生きてください。
普通の少女らしく。
それが出来るのは
私は、私たちは、貴女を全力で守ります。不便な事も多いかと思いますけれど……どうか、私たちを知ってください。
知って、願わくば存在を認めて、協力してほしい……
いつか、貴女に私の言葉が届く日がくるまで。貴女が、私たちの姿を見る事ができるようになる、その日がくるまで。
私はこうして、貴女に話しかけ続けます。いくらでも、同じことをずっと。
どうか。
強く生きて、サナ。
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