魂たち


 身体の使用者がサナからオースティンへと変更されました。


「……まぁ、落ち着きなよ勇者サン?」

「……は?」


 常時発動スキル【人畜無害】発動しました。


「ああ、お嬢様方も、一度落ち着いて。僕が説明してあげるから」

「僕?」

「おじょーさまにゃ?」

「あなたは? また、その、変わったんですの?」


 オースティンのスキルにより、三人とも肩の力が抜けていきます。彼のスキルは人を安心させますからね。とにかく人好きのするタイプなのです。話し合いや揉め事の解決には打ってつけと言えますね。

 特別な力や、戦う力は持たないただの一般人ですが、彼のスキルは特殊で、常時発動するのです。勇者の称号なんかと同じように。でもそう言ったタイプのスキル持ちは、一定数いるようですが。


「うん、受け入れてくれて嬉しいよ。僕はオースティン。訳が分からなくなってるんじゃないかなって思って出てきたんだ」


 ニコリ、と笑うオースティンに、三人の表情も緩みました。


「不思議だな……外見は変わってないのに、君はちゃんと男の子に見える」

「本当ですわね……お話ししてみるとよくわかりますわ」


 そう、オースティンは男。スピリットの中には当然、男もいますからね。ですが、体とスピリットの性別が違うと、色々と問題もあるようです。


「うん、僕は男だよ。だから本当はこんなスカートとか、恥ずかしいし今すぐ着替えたいんだけどね。なんで女の子ってスカート履くんだろう。旅の間は動きにくいしズボン履いてくんないかなぁ」


 そう言いながら、オースティンはスカートの端をつまみます。そのせいで太ももがちらりと見えました。ナオの目が釘付けとなっているので、両側からフランチェスカとエミルが小突いていますね。太ももならエミルだってショートパンツなので見えているでしょうに。チラリズムのエロスといったところでしょうかね。


「ま、仕方ないけどね。で、何か質問ある? ちゃんと答えられるのは今のうちだよ?」


 口をへの字にして頭を乱暴に掻くと、オースティンは再びニコリと笑って腕を組み、三人にそう言いました。


 本当は、彼が性別の差に悩んでいることは知っています。まだ、サナの身体が未成熟だからこそ、耐えられるのだということも。誰よりも、自分の身体があれば良かったのにと願っている事も。

 けれど、それを表には出しません。基本的に優しいのです、オースティンは。


「わ、悪い。じゃあ早速だけど、ずっと気になってたことがあるんだ」


 気を取り直したナオが、小突かれた部分をさすりながら口を開きました。


「お前たちは、その、全員で何人いるんだ? あと、できれば、どんな人たちがいるのか聞いておきたい」


 あぁ、失念していましたね。たしかにそれは知っておきたい事柄でしょう。そうでなければ旅の間、今回のミオのように突然チェンジしてしまった際の対応に困ってしまいますし。

 きっと大変だと思いますよ? けど、選んだのはナオ、貴方です。決めたからにはきちんと、最後まで面倒をみていただきます。


「オッケー、わかったよ。じゃ、まず誰を知ってる?」

「えっと、サナの他は、ルイーズとさっきのミオ、そして君、オースティンだな」


 ナオは指折り数えながら答えました。ナオの前で姿を現したのは確かにそのメンバーですね。


「意外と少ないんだね。えっとね、まずスピリットの数は全部で多分、十一人。もしかしたら他にもいるかもしれないけど。あ、僕らは自分たちの事をスピリットっ呼んでるよ」

「あの、そのスピリットたちの、正確な人数はわからないんですの?」


 フランチェスカが首を傾げながら尋ねました。それに対し、肩を竦めてオースティンは答えます。


「うん。心の中は広すぎるからね。僕らは心の中にあるそれぞれの部屋に住んでいるんだけど……今言った人数は、見えている数だから。もしかしたら見えてない場所のどこかに部屋があって、誰かが住んでるかもしれないし、新たに生まれることもあるかもしれないし」

「ふ、増えるのにゃ!?」


 そう、ちょっとしたキッカケで、スピリットは増えてしまいます。どういった基準で増えるのかはわかりませんが、本体が心に受けた衝撃などから身を守るためではないか、と私は推測しています。まぁ、不確定なのでこの辺り、オースティンには誤魔化してもらいましょう。


「んーっと、その辺の原理は、僕にはよくわかんないんだ。ごめんね」


 ヘラっと笑ってオースティンが言えば、みんながそんなものなんだ、と納得してくれた様子。本当に、いつも助かりますよ。


「だから、僕が知ってるメンバーとちょっとした注意点なんかを教えていこうか」

「! 助かる! ぜひ頼むよ」


 オースティンの提案に、ナオが満面の笑顔で答えたのを見て……人を誑すという点で、ナオとオースティンは少し似ているかもしれない、と少し思いました。


「まず、僕たちの頭脳ブレーンで、スピリットたちを束ねる役割を持つジネヴラ。性別、年齢不詳だけどすっごい頼りになるよ。中心人物だ。色々と指示を出してくれる、天才がいるよ」

「性別も年齢も不詳なんて、あり得るのか?」

「中心人物にゃ?」

「天才……ぜひ、お目にかかりたいですわ」


 おや、オースティンは最初に私を紹介してくれました。まぁ、その方がわかりやすいかもしれませんね。性別と年齢については、スキル【全知】を持つ私といえど、知ることができないので仕方ありません。教えようがないのですから。まぁ、そんなものはどうでもいいですしね。私がチェンジで表に出ることはありませんから、問題もありません。


「困ったことがあれば、いつもジネヴラに相談してる。いつも外の様子も見てるから、大体のことは把握してるんだよ」

「そのジネヴラがいるから、きっと君らは生活できてんだろうな……」

「ジネヴラだけの力じゃなくて、協力し合ってるからだよ。ま、ジネヴラの存在が大きいのは確かだけどね」


 その通り。私だけではむしろ何もできませんから。表に出て、生活してくれる皆さんがいるからこそですよ。


「で、他には家事とか料理とか、そういったのが得意なアリーチェ。世話好きで丁寧な物腰の女性だけど、怒ると怖い。お母さんみたいな人。それからリカルドっていう攻撃魔法が得意な男がいるよ。けどすっごい無口。真面目だけどね」


 オースティンは、無害なスピリットから紹介しているようですね。次はきっと、少し問題ありのスピリットたちを紹介するのでしょう。


「注意が必要なのはさっきのミオ。サナが不安を感じると出て来やすい。こっちでは止められないから気をつけて。あの泣き声は出てきたら必ず発動すると思って」

「うっ、さっきのは本当に驚きましたわ……戦闘中だったら危険ですわね」

「でも、敵も一緒に混乱させられるかもしれにゃいにゃ」

「耳栓を準備するといいよ。それでかなり抑えられるから」


 ミオのスキルはそんなに強力ではありませんからね。簡単に対策ができます。三人は、あとで用意しようと話をつけているようでした。


「あとはミオに近いスキルを持つ甘えん坊のノア。八才の男の子で、サナが疲労すると出て来やすいかな。性格はのんびりで大人しいし、ミオみたいにいつもスキルを発動するわけじゃないけど……気分次第で周囲の生物みんなを強制的に眠らせるよ。こっちはそこそこ強力。三人も呆気なく寝ちゃうと思う」


 ノアが出てきた時は、静かな空間を準備して大人しく寝かせてあげる事が重要です。そうすれば、無闇にスキルは発動しません。子どもというのは、本当に扱いが難しいですね。


「あとは脳筋、パウエル。扱いは簡単だけど、何でも力任せにしがちだから注意かな」


 パウエルは、最近生まれたスピリットで、私たちのことも認識していませんから、神出鬼没ですね。まだ掴めていない、という点で少し注意が必要です。


「次、要注意人物と……超要注意人物を紹介するね」


 オースティンが、声のトーンを下げてそう言うと、三人がゴクリと喉を鳴らすのがわかりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る