おまけ

 1年後。


「See you again tomorrow」

「……See you again tomorrow」

「はイ、よくデキマシタネ!」


 ランドセルを背負って、ひつぎは肌の美しい女の先生、リュリィ・アーガストから片言の日本語で頭を撫でられてから教室を出て、無駄に華美な彫り物された玄関を抜けて帰路につく。

 次に引き取られた親戚を名乗る女性はアメリカに海外赴任する予定だったらしく、ひつぎがその容姿のせいで学校でいじめられていることを知ってからは「こんな狭い国にいるからいけないんだわ! 一緒に来る?」と誘ってくれた。行き先がアメリカだと知って、ひつぎは一も二もなくその提案に飛びついたのだった。そして現在、アメリカの日本人学校で英語を学んでいる最中だ。

 帰り道にあるパン屋さんで、卵サンドを買うことを日課としながら毎日同じ公園で食べる。その公園は遊具がたくさんあって、まるでブレイクと過ごした公園のようだったから。


 いつも通り卵サンドを(いつも買っていくので、もう顔も名前も覚えられていつも取置いてくれる)パン屋さんで買って公園に寄り道をする。もうすっかり春で、陽はだんだんと延びはじめている。

 なんとなく人目につかない木陰のベンチに座って、ランドセルを横におき。パン屋さんの茶色い紙袋を膝の上に置き開こうとしたときだった。

 ぐいっと後ろからなんの遠慮もなく無理やり髪の毛を引っ張られてベンチごと後ろに倒れる。回転する目の端でランドセルが転がって中身が飛び出たのがみえた。

 髪を引っ張られた痛みとベンチごと身体を打ちつけた痛みに呻いて涙目になりつつ、前を見るとどこかで見たような右目には黒い包帯を巻いていて、黒いマスクをして耳には数え切れないほどのピアスをしている青年。左の碧眼は驚きに見開かれていて。どさっと斧がひつぎの真横の土に突き刺さる。


「Hithugi?」

「Break……It is not in the handling of girl(ブレイク……女の子の扱いがなってない)」


 文句を言いつつ、ひつぎはそっとその無表情の唇を緩めて。小さく笑ったのだった。首の黒いチョーカーはどろりと溶けて消えていったのを、地面に刺さった不錆不壊の斧だけが見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神さまの仕組んだデス・ゲーム 小雨路 あんづ @a1019a

作家にギフトを贈る

カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

サポーター

新しいサポーター

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ