第22話 愛しているのに

「……?」

「……」


 青空を駆け抜けた、空風が頬を撫でる。

 気付けば2人はわいわいと人ごみ騒がしい雑踏の中に立っていた。周囲を見回せばそこは左右にビルが建ち、人々が行き来し合っている。隣には死んだはずのひつぎが驚いたように空を呆然と見ていた。ふと、死んだ時の表情がフラッシュバックするもののブレイクは首を振ってそれを追い払う。


 その後、夢花を先手で殺し。あゆりを砕き。陽乃子を倒し。時人をもう一回片付けた。


 同じ公園で休憩をとっていれば、見覚えのある少女が。「チビ」が公園内に入ってきて、また揉め出す。それをただ傍観して天の声が耳元で囁かれたとき。


『これより4時間№6晴峰・R・兎姫の持ち時間となります』


 ブレイクは兎姫が鉄扇をひつぎの首に当てる前に。あふれる殺気をグリップを握りしめることで押さえて、問答無用でその鉄扇を持つ手を狩りとったのだった。あふれ出る血飛沫と痛みに少女らしくはない、ぎゃああああああああと汚濁にまみれた悲鳴を上げた。左手で、接触切断の鉄扇を持ったまま切り落とされた手を震える手で拾い上げながら。


「なぜ? なぜじゃブレイク、そちは妾をかばってくれたでは」

「『弱いものいじめ』はいけねえことだ。でも『チビ』はもう弱いものじゃない。一番弱いひつぎを殺したんだから。そして笑ったんだから、てめえはもう『チビ』じゃない」

「そんな……そ、んな。ブレイク、妾じゃ、妾なのじゃ! 『チビ』は、妾だけじゃ!」

「俺は真っ当な殺人鬼だ。ちゃんと痛みがあって、感情がある人間だ。だから、『弱いもの』が傷つけられることが許せねえ。そしてひつぎは『弱いもの』だ。俺の前で殺されるなんてあっちゃならねえんだよ」


 自分の理論が、ブレイクを想う恋心が理解されないのだと知った兎姫は、ブレイクにかばわれたひつぎを睨む。睨んでその藍色の瞳の奥で激しい嫉妬の炎を燃やしながら、罵った。


「おのれ、下女め! この売女が! ブレイクをたぶらかしおって! ブレイク、妾じゃ、『チビ』じゃ。わかるじゃろう? 愛しておるのじゃ、だから!」

「うるせえ、死ね。ガキ」

「ブレイクゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」


「なぜじゃ?」そんな風に動いた兎姫の口もとに、ひどく冷ややかな視線をくれながら。ブレイクはざしゅりとその首を、おとしたのだった。



「『チビ』は最初は怯えてたんだ」

「……うん」

「こんなゲーム早く終わればいいって、何度でも殺されてた」

「……うん」

「『チビ』は、弱いものは。俺の前で殺されることなんてあっちゃならねえんだ」

「うん……助けてくれて、ありがとうブレイク」


 血を吐くように低く唸る声で言うブレイクに、ひつぎはただ礼を言うことしかできなかった。地面に倒れた兎姫の死体を見つめながら、言い訳のように呟くその言葉をただ。ブレイクの頭ごと抱きしめることしか、ひつぎにはできなかった。ブレイクにとって、かつてのか弱い兎姫は確かに保護対象だったのだという事実をただ、消化するように。

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