第10話 現人神の血脈
「……?」
「ああ?」
青空を駆け抜けた、空風が頬を撫でる。
気付けばひつぎはわいわいと人ごみ騒がしい雑踏の中に立っていた。周囲を見回せばそこは左右にビルが建ち、人々が行き来し合っている。隣には死にかけていたはずのブレイクが驚いたように人差し指と薬指だけ出ている手袋のはまった手を呆然と見ていた。ふと、死にかけていた顔がフラッシュバックするものの首を振ってそれを追い払う。
その時とんとんとんとんっとなにかがビルの屋上から屋上を伝って、あるいは窓枠に足をひっかけて軽い足取りで降りてきた。まるで曲芸でもしているかのような、重力なんて知りませんと言わんばかりの身軽さに目を丸くするひつぎの前に、彼は降り立った。
太陽の光に透ける茶髪に茶色い目、そばかすの散った活発そうな幼い顔はさっき写真で見ていた少年そのものだった。服装は囚人服ではなく、白いTシャツに黒いカーディガンと青い煤けたジーンズというラフな格好だったがその片手にはじょうろを持っている。
「やあ! はじめましてお姫」
ぶうん、ざしゅう!!
羽音にも似た風切り音がする。夢花の首が飛んで、血しぶきをあたりにまき散らす。無言のまま後ろに立ったブレイクが夢花の首を切り落としたのだ。笑顔のままころりと転がった首が足元に来て、思わず蹴ってしまった。それでも無表情なままなあたり、さすがひつぎと言わざる負えない。
ブレイクのほうはまったく気にした様子もなく、夢花の身体のほうの服で血のついてしまった斧を拭いている。夢花の白いTシャツが真っ赤に染まった。まあもともと噴き出た血で赤くはなっていたのだが。
「おいひつぎ、パンやいくぞ」
「……うん」
ちょっと血で汚れてしまった白いスニーカーを気にしながら、すぐに先を……右側を歩いてくれるブレイクを追ってひつぎは歩きだしたのだった。……もう、全てが狂いだしてしまったことなんて気づきもせずに。
「いいなあいいなあ、さすがひつじちゃん。
どこかで狂った神がはしゃいでいることなんて知りもせずに。
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