第20話 最後の殺人鬼


「だから悪かったって言ってんだろ?」

「ブレイク……信じられない。人でなし」

「そりゃあ殺人鬼だしなあ。鬼ってつくくらいなんだから人じゃなくねえ?」

「……冗談でも言い過ぎた。殺人鬼でも、ブレイクはブレイク。ちゃんと痛みがあって、感情がある人間。……ごめんなさい」

「あー。別に。俺もやり過ぎた」


 悪ぃ。どこかぶっきらぼうに、ひつぎの頭をぐりぐりとなでながら言うブレイクにこちらも照れくさくなりながら。

 ひつぎとブレイクは目的である公園の日向に置いてある温かい鉄のベンチにて休んでいた。ひつぎが仰向けに寝かされていたベンチはデパートの上のミニ遊園地のものだったらしくさすがに死体が山ほどあるところでは気分的に休めそうもないし、なによりブレイクがこの公園の近くにあるパン屋の卵サンドを所望したからだ。茶色の紙袋の中から目的のものを探し出してがつがつ食いついているブレイクにひつぎは。


「うめえ」

「よかった。……ブレイク、牛乳ストローさしとく」

「おう」

「最後の殺人鬼……だね」


 どことなく哀愁を帯びたような声で呟くひつぎに気付かずに、ブレイクはひつぎがストローをさした牛乳を勢いよくすする。空風が吹いて、隣においた斧が冬の弱弱しい光に照る。風が木の葉を揺らすがその分日差しは暖かいので問題はなく2人はベンチへと座っていた。ただ、さすがにブルマは見ている分には寒いのでひつぎは一所懸命ジャージで足を隠していたが。そんなひつぎを見て牛乳をすすりながらブレイクはそんなに寒いならジャージの前閉めりゃいいのにとか思っていた。


「そうだな。なんだっけ? チビが来んだろ」

「わたしより一歳年上だった」

「なんだよてめえ、俺たちの中で一番年下かよ!」

「ブレイク……うるさい」


 ぎゃはははと下品に笑うブレイクを、無表情のままひつぎが咎める。

 そのままぷいっとそっぽを向いたところで、公園の入り口に立つ1人の少女に気がついた。なんとはなしに見ていると、少女も視線に気づき驚いたように目を1回見開くとすぐに鋭くさせてひつぎを睨んだ。

 大きなリボンを何重にも頭に巻きつけ横で結び、黒髪はツインテールにして1枚の赤と金糸で織られた太陽に輝く布をその未発達な体に巻き付け差し込むように黄色い帯をして中華服のようにしたひつぎと同じくらいの年齢の少女。帯には扇子のようなものがはさみこまれている。

 そして、まだ何の言葉も交わしていないのに……というか、目が合っただけなのにすごく睨まれた。意味が分からない。

 すぐにこちらに向かって競歩の勢いで歩いてくる少女のことを伝えようと隣同士で座っていたブレイクの左袖を引っ張る。


「あ? どうした?」

「最後の殺人鬼の人……来た」

「お? ああ、よおチビ! 生きてたかー」

「ブレイク! わらわ以外の女子おなごを近づけるとは何事じゃ! そちもいつまでもブレイクの袖を掴んでおるでないわ、この下女げじょめが!」

「はー? 相変わらずチビはうるせえな。あっちのユーグ? で遊んでろよ」


 OK、把握した。心の中ですんっと真顔になりながらゲンドウポーズをしつつひつぎは頷いた。つまり、この少女はブレイクが好きだということでいいな? と頭の中で議長・ひつぎが問うと全審査員・ひつぎが満場一致でOKを出す。別にブレイクに恋人がいようが愛人がいようが気にはならないが、それがこんなに幼いとなってくると話は別である。ブレイクの不義理を責めたてている少女には悪いがここははっきりさせねば。

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