第13話 こんなことで天才にされても困る

「っつーかよお、こいつって男なんか? 女なのか?」

「さあ……わからない」

「ズボン脱がせば一発じゃね?」

「ブレイク……最低」

「なんでだよ!?」


 そんなくだらない会話をしつつあゆりの身体のほうへと近づいた時のことだった。あゆりの身体を中心として最初は点と点を結ぶように、しだいにそれは形を帯びて青いまあるい形の幾何学的な模様の外に何語かわからない文字で何書かれていた。それがゆっくりときしむように回りだす。初めはゆっくり、徐々に加速して一定の速度で回り続ける。

 『※現代に生きる魔法使い』その単語が脳裏に浮かびとっさに距離を取ろうとした二人に、魔法陣からあゆりの声が聞こえた。どこかノイズが入ったような、けれども鮮明で不思議な響きだった。


『あーあー、聞こえてるかな? まあ聞こえなくてもいいや』

「諦めんなよ」

「聞こえ……なくてもいいの?」

『やあ、この魔法陣が発動したということはボクは死んでいるということだよね。絶対命中の三又鉾を下せるなんてすごいよ、素直に称賛を送ろう。……で、なんだけどね? 次の持ち時間の子はボクの友達でね。とあるカフェを営んでいるんだが、そこに行ってほしいんだ。ああ、ちゃんとあの狂った神には話を通してあるから行かなかったらキミたちが失格になるだけだから別にいいんだけどさ。なにぶん出不精な子でね。かなり性格のカワイイ子だから気を付けてね? それじゃあ、地獄で待ってるよ』


 ぷつり。テレビを消す時みたいな音で声は途切れると、一緒に魔法陣の回転も止まる。すると、今度はぐらぐらと魔法陣が揺れ、あゆりの身体を透過してその上に浮くとだんだんと小さくなり、集約され、破裂音とともに青い光を散らして固体ではないものにこんな表現を使うのもおかしいかもしれないが、砕けた。そして、呆然とそれを見ることしかできなかったブレイクとひつぎの前にひらひらと2枚、それぞれの手紙が天から落ちてくる。

 それは地図だった。現在位置と目的場所、そして「これから2時間以内にそこにつかないと失格として2人ともセーブ関係なく殺しちゃうよ」という神からの言葉がついていた。『狂った神には話を通してある』とはこいうことなのだろう。ちなみにこのときひつぎは正確に見ていたが、ブレイクの地図は逆さまだったことだけは伝えておこう。


「ブレイク……これ、2時間以内にここに行かないと失格で殺されちゃうって」

「ああ!? どこに書いてあんだよ、んなもん!!」

「ここ……読めるの?」

「読めねえよ!!」


 ひつぎが指で示したところを見もせずに、うがあ!! と感情まかせに地図を破り捨てたブレイクに、ひつぎは自分の持っている地図を見て、なるほど。と頷くと反対方向にとりあえず歩き出そうとしたブレイクの腰元のジャージを軽く引っ張った。


「ああ!?」

「……ブレイク、こっちだって」

「……お前地図も読めるとか天才かよ」

「……こんなことで天才にされても困る」


 それはひどく詳細だがわかりやすい地図で、ひつぎはこっちと目的地までブレイクのジャージを引っ張り連れて行こうとしたが。ブレイクに手をはねのけられる。

 いままでブレイクにされたことのない反応に、思わず目を丸くしたひつぎに。ブレイクは不機嫌そうに言いつつ、斧を左手に持ち替えて肩にのせる。


「左側歩け。右目は見えねえんだ」

「……うん。ごめんなさい」

「それと服はこれ以上引っぱんな。伸びるだろうが。手にしとけ」

「……うん、わかった」


 そうしてひつぎはブレイクの変わった手袋をつけた右手をとると、軽く引き。一緒に歩きだしたのだった。

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