第23話 会話文だけで伝わるなんて思うのは書き手の勘違い


 時々、会話文のみ、または、会話文がほとんどの小説を目にする。

 描写がほとんど入らない、口語調の軽い文章は、語彙が少なく筆力が低い者であっても容易に書くことができる。かく言うボクも、小説を書き始めた頃、この手の文章を書いたことがある。


 登場人物が複数であっても、それぞれに特徴のある話し方をさせれば、誰の台詞なのか混同することはない。また、「!」、「?」、「!?」、「……」、「――」といった符号を用いて台詞のトーンを調整することで、登場人物の感情の変化などを表すこともできる。


 会話文中心の文章は生き生きとした印象があり、スムーズに読むことができ、読み手に対しても内容を伝えることができる――と思っているのは、書き手だけで、それは大きな勘違いに他ならない。


 例えば、男女二人がカフェを訪れ、テーブルを挟んで話をするシチューションがあったとする。

 冒頭で「▲▲と△△はス〇バを訪れ、それぞれがエスプレッソのカップを手に奥のテーブル席に座った」という描写をした後に会話文を続ければ、二人の現在地は特定でき、言葉を通して読み手に情報を伝えることができる。

 ただ、テーブルに座った二人が微動だにせず、ロボットのように話し続けているのならともかく、当然何らかの動きはしており、カフェには二人以外にも人がいることから、店内の動きや二人の間の雰囲気は刻一刻と変化している。そんな情景を会話文で伝えるのは至難の業だ。


 小学校低学年の児童が書いた作文であれば、「動物園へ遠足に行きました。バスに乗って行きました。動物園にはたくさんの動物がいました。初めにライオンとトラを見ました。次にシマウマとキリンを見ました。お昼になったので▲▲ちゃんと△△ちゃんとお弁当を食べました。たまごやきとウインナーがおいしかったです――」などと、自分が目にした景色を文章にすれば合格点がもらえる。

 しかし、読み手には必要最低限の情報しか伝わっておらず、情景が目に浮かぶことは到底期待できない。


 会話文のみの小説というのは前述した文章に毛の生えたようなもので、情景描写を省略している部分は読み手の想像力に委ねられる――などと言えば聞こえはいいけれど、読み手を蚊帳の外に置いた、不親切極まりないものと言える。


 中には、会話文の中にカッコ書きで「勘弁して下さい(号泣)」、「(ニヤリと笑いながら)俺に秘策がある。任せてくれないか?」、「ズズズ~(ストローでジュースを飲む音)」と補足説明が書かれているものもあった。これはもはや小説と呼べるものではない。


 なお、詩については、情景をぼかして解釈を読み手の感性に求めるところがある。ただ、もともと「想像することを楽しませる」というのが詩の持ち味であって、読み手は情報不足による物足りなさを感じることもなければストレスを溜めることもない。


 実は、会話文小説を書いたとき、複数の読み手から「内容が伝わらない」といった趣旨の指摘を受けたことがある。そのときはムッとしたものの冷静に考えたらそのとおりだと思った。

 書き手の頭の中にはプロットが入っているので、前述した、カフェの様子や二人の雰囲気は手に取るようにわかる。しかし、そんな会話文だけで書き手のイメージが百パーセント伝わることはあり得ない。いや、五十パーセントだって怪しい。

 最近、カクヨムや他のサイトで目にした小説も同様で、読み進めて行くとストレスが溜まりそうなので途中で読むのを断念した。それは、読み手だけでなく、真剣に文章を紡いだ書き手にとっても不幸なことだと思う。


 こんな話をしたところで、普段ボクが小説を読ませてもらっている方は「そんなの当たり前」と思ったことだろう。まさに「釈迦に説法」だと思う。

 そんな方に、ぜひ訊いてみたいことがある。


 文章の途中で、会話文を続けるとき、何回ぐらいのやり取りであれば許容範囲なのだろう?

 と言うのは、会話文小説の指摘を受けてから、その手の文章を書くことはなくなったものの、会話文が続く箇所を妙に気にするようになった。具体的には、最大四つの会話文が続くと、意識して何らかの描写を入れるようにしている。

 さらに、あるキャラが過去を振り返ったり謎解きをするときなど一つの会話文が妙に長くなることがあるけれど、そんな場面では一旦会話を切って、コーヒーを飲んだり深呼吸をしたり髪をかきあげたりと描写によるインターバルを取るようにした。ただ、それを「無駄な描写」と指摘される懸念もあって、そのたびに悩んでいる。


 気にし過ぎなのかもしれないけれど、読み手の視点を考えれば「情景描写と会話文のバランス」はとても重要だと思う――と、偉そうなことを言いながら、明確な答えが導き出せていないのが現状で、もどかしい限りだ。



 RAY

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