第7話 「異」のつくものが人気になるのはそういうわけ


 カクヨムでは、現実世界とは別の世界が舞台となる、いわゆる「異世界モノ」が主流となっている。


 運営が独自性を打ち出すようなことを言っていた時期もあったけれど、落ちついたのは、某巨大サイトのおこぼれをもらうような立ち位置。

 ただ、ボクはそのことを批判するつもりはない。運営主体の経営方針に対して、サイトの一使用者であるボクがとやかく言える立場にはないと思うから。どうしても納得できないのであれば、退会すればいいだけのこと。


 カクヨムに来たばかりの頃、小説のPVが伸びず悶々とした気持ちを抱いていた。

 そんなとき、ふと人気ランキングを覗いたら、上位は異世界モノが独占していた。

 さらに、異世界モノ以外の人気作品を読んでみたところ、超能力とか魔法を駆使する「異能モノ」や、妖怪やモンスターが登場する「異形モノ」ばかりだった。カテゴリーは恋愛や現ドラであっても「異」のつく何かが絡んでいない話は、ほとんど皆無だった。

 今なら「ふぅ~ん」で済まされることだけれど、当時は無茶苦茶焦った。

 ボクが公開していた、五十話以上ある長編小説のPVは全体でも百に満たないのに、ランキング上位の小説は一話が百はおろか千を超えていたから。


「カクヨムでは『異』がつかない作品――非現実の要素を前面に出していない作品は陽の目を見ないのでは? ボクもその手の作品を書かないといけないのでは?」


 そんな強迫観念に囚われ、しばらく悩んだのを憶えている。


 ただ、結果として、異世界モノを書くことはなかった。SF・ファンタジー・ホラーといったジャンルの話を書いていたことで、異能力や異形が登場することはあったけれど、それらを前面に出すようなこともなかった。

 それは、ランキング上位の小説をじっくり読んで、惹かれるものがほとんど無かったから。

 面白くないわけではない。しかし、心が動かされたり、目から鱗が落ちるようなことはなく、時間を割いて読むものではないと思った。


 この手の作品が人気を博している理由を考えたところ、現実世界に不満を抱いてストレスを溜めこんでいる人が多いのではないかと思った。

 不満を抱きながらどうにもならない人は、非現実的な環境への憧れを抱き、何らかの形で現実逃避を望んでいる。

 そのような人が読者となって自らを主人公に重ね合わせることで充実感や満足感を得ることができ、作品を読むことを習慣化することでストレスの解消を図ることができる。


 普通に考えれば、型にはまった、VSOP(Very Special One Pattern)な作品は褒められたものではない。ただ、伝統芸能がそうであるように、型にはまったところが読者に安心感を抱かせ、生活の一部として手放せないものとなるのではないか?


 異のつく作品は、ある意味、書く方にとっても楽なところがある。

 現実世界と切り離して独自の世界観を構築することで、現実世界には当てはまらないことや矛盾することも「そういう設定だから」という理由でクリアすることができる。


 読者ニーズが高いことで書籍化されやすく、比較的楽に書くことができ、しかも、定型化された作品が好まれることで奇抜なアイデア出しに頭を捻ることもない――まさに、書き手・読み手双方にとって魅力的なものだと言うことができる。


 ただ、そんな分析をしても、ボクはその手の作品を書こうとは思わない。

 自分の書いた文章が書籍化されることを望んでいないわけではないけれど、作品を無理やり「ある型」に押しこむことで、自分らしさを失うことに抵抗がある。加えて、自分が感銘できない作品を他人に読んでもらうことにわだかまりがある。

 自分のことを幸せだと思っていない人が、他人を幸せにできないのと似ているのかもしれない。


 ボクは商業作家には向いていないのだと思う(笑)

 


 RAY

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