第10話 キャッチコピーは口ほどに物を言う



 カクヨムは、他のサイトにはない、魅力的な機能をいくつか取り入れている。


 自らの作品をアピールする「キャッチコピー」もその一つで、個人的に大いに活用し、そして、楽しんでいる。

 出版社の編集担当が行うような、作品のアピールは、まるでブックストアに並ぶ本に帯を掛ける感覚で、自分の作品が書籍化されたような気分に浸ることができる。

 あーでもないこーでもないとキャッチコピーの文面を考えるのは、とても楽しい。自作への思い入れが強い証拠なのかもしれない。


 もちろん、自己満足だけではなく、本来機能であるアピール効果も期待できる。

 カクヨム友に話を聞いたところ、その内容を見て作品に目を通す人も少なくなかった。「たかが三十五文字。されど三十五文字」だと言える。


 しかし、いくら秀逸な作品であっても、キャッチコピーを見た瞬間、足が遠のいてしまうこともある。

 タイトルを見て「読んでみようかな」と思ったのに、キャッチコピーを見て読む気が失せるケース――読み手を集めるはずのキャッチコピーが、読み手を遠ざけてしまうケースだ。


 では、具体的にどんなケースが考えられるのか?


 初めに言っておくけれど、これは、あくまでボク個人の意見であって、それが間違いだと言うつもりはないし否定するつもりもない。

 そんな作品の冒頭に目を通して、「少なくとも一人、読むのを止めた人間がいる」ぐらいに考えてもらえればいい。


 ボクの場合、大まかに言って二つある。


 一つは、読み手の性的興味に訴えかけるような、直接的かつ過激な表現を使っているもの。

 生理的に嫌悪感を抱くことに加え、小賢こざかしい手法を取る書き手が人として信用できないから。そう言う意味では、ボクは、ベストセラーになった作品であっても作者の印象が悪いと読む気がしない。


 ご存じのとおり、カクヨムは性的描写に対して厳しい対応を取っていて、直接的な表現はもちろん、読み手にそんなシーンをイメージさせるものに対してもNGを出すことがある。

 書き手のほとんどはそのことを認識しており、過激なキャッチコピーも、蓋を開けてみると基準に抵触することの無い、ありきたりな作品であることが多い。

 目を通した瞬間、性的欲求のやり場を失ってガッカリする読み手もいれば、予想通りの愚行に閉口する読み手もいる。

 もちろん、想定外のサプライズに感動を覚えてファンになってくれる読み手がいないとも限らない。

 ただ、エイプリルフールの嘘に、その場で笑い飛ばせるものと後味が悪いものとがあるように、後者のような気持ちを抱くと作者への不信感だけが残ってしまう。


 もう一つは、コンテストの選考で落ちたことを誇らしげにPRしているもの。

 これはまさに「両刃もろはの剣」。ネームバリューのある、難関な新人賞の最終選考に残ったことを記載すれば、読み手が増える――しかし、読み手に「先入観」が働くのも事実。

 つまり、「最終選考に残るなんてスゴイ作品」といった頭で読むことで、自然と読み手のハードルが上がり、半ば無意識のうちに「読み手」ではなく「編集者」の目で見てしまう。

 頭の天辺てっぺんから尾の先までしっかり餡子あんこが詰まったタイヤキ状態ならいいのだけれど、そこは選考漏れした作品。どこかに粗があるのが当たり前。

 そんな粗を見つけた瞬間、読み手は「落ちるのも当然」などと辛口の評価とともに読むのを止めてしまう。キャッチコピーがなければ、最後まで読まれた可能性が高く、また、書き手のファンも増えたのではないか?


 さらに、「最終選考作品」や「三次選考作品」ならともかく、一次選考で多数の作品が残るコンテストで「一次選考作品」などと書いているのは、ハードルを上げるだけでメリットはほとんどない気がする。

 余計なお世話かもしれないけれど、一次選考を突破できたことを前面に出す、書き手の姿勢に「一生受賞に手が届かないのでは?」などと危惧を抱いてしまう。



 キャッチコピーは、作品のPVが伸びて書き手に与える印象も良くなり、引いてはファンが増えるといったメリットがある。他方、使い方次第では誰も寄りつかなくなってしまう。

 コミュニケーション機能を重視するカクヨムには、学校、会社、サークル、PTAのような「ゲゼルシャフト」(利害関係組織)が形成され、書き手&読み手の距離を縮めている。結果として、ボクを含めてそんな状況を楽しんでいる人も多い。

 あくまで緩やかな集合体ではあるけれど、「悪事千里を走る」といった状況があってもおかしくない。


 PRツールであると同時に、コミュニケーションツールであるキャッチコピーを、これからも上手く使っていきたい――愛する作品のために。そして、作品を通して良い縁を得るために。



 RAY

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