★Interlude2(幕間)★


《一九八X年 九月Ⅹ日 午後三時四十五分》


「――RAYちゃん、なに描いてるの? ウサギさん?」


「ううん。これはネコだよ」


「えっ? お耳が長くてお目目も赤いのに? そんなネコさん、見たことないけど……」


「授業中、考えてたんだ。周りのことすごく気にする、ちょっぴり変わったネコのこと」


「変わった……ネコさん?」


「うん。どんな物も見逃さないようにジッと見て、どんな音も聞き逃さないようにしっかり聞いていたら、いつの間にか目が赤くなって耳が伸びちゃったの。見た目はウサギっぽいけれど、ネコなんだよ。この子」


「へぇ~おもしろい。わたしも描いてみようかな……あっ、もしも、すごく食いしん坊のネコさんがいたら、美味しいものがないか、匂いを嗅ぎまわっているから、鼻が伸びてゾウさんみたいになったりする?」


「うん。なるかもしれない。そんなネコがいたら楽しいね」


「わかった。描いてみる……。みんな、見て、見て! RAYちゃんが楽しいネコさん描いたよ。わたしもこれから描くからね」


★★


《二〇一Ⅹ年 Ⅹ月Ⅹ日 午後八時四十五分》


「――RAYさん、あなたが作成した、T社主催の公募コンペの企画書……私が指示したイメージと全然違うんだけど。話聞いてた?」


「はい、課長。実は、クライアントに探りを入れたところ、先方が求めているものが見えたのでアレンジしてみました。これなら他社の無難な企画に対してアドバンテージが取れます」


「そんなこと言ってるんじゃないの。こんな奇抜なアイデア出して、失敗したらどうするかってこと。責任は私が取らないといけないの。わかってる?」


「ですから、前もって課長に相談させてもらいました。見ていただくとわかりますが、ビジネスプランとして実現可能なものですし費用対効果も悪くありません。クライアントの食い付きは良いはずです――」


「だ~か~ら~! クライアントが『そうしてくれ』って言ったわけじゃなくて、あなたが『そう思った』だけでしょ? 思い違いだったらどうするわけ? そんな奇抜な企画、クライアントに出す前に部長に却下されるわよ」


「もちろん部長には、事前に説明して了承をいただくつもりで――」


「バカ言ってるんじゃないの! そんなことしたら私が鼻で笑われるじゃない! 考えても見なさい。ウサギを指して『目が赤くて耳の長いネコ』だなんて言って納得する人がいると思う? 自分がどんなに非常識なこと言ってるかわからないの? いいから指示どおりやりなさい!」


★★★


《二〇一八年 七月十五日 午後十一時十三分》


 「大人のブラックボード」開設



 RAY

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