第19話 書き手とコンシェルジュはどこか似ている


 先日、某ホテルのコンシェルジュを務める友人と話す機会があった。


 「コンシェルジュ(concierge)」はフランス語で「集合住宅の管理人」を意味する言葉。もともと、高級マンションにおいてメンテナンスや住人の相談対応を行う者のことをそう呼んだ。

 いつからか、ホテルにおいて利用客の総合案内を担当する者を指す言葉となり、その業務は、ホテル内施設の案内はもちろん、周辺の観光スポットの紹介、交通機関・演劇のチケットの手配、急病人の応急処置など幅広い範囲に及ぶ。

 現在では、ホテルに留まらず銀行、百貨店、レジャー施設など、人が多く集まる場所に配置され、お客様サービスの一環として定着したものとなりつつある。


 コンシェルジュの業務は多岐にわたるため、業務を適切に遂行するには、幅広い分野に精通していることが必要であり、さらに、「お客様に満足を提供する」といった目的のもと、常に利用客の立場に立って考え行動することが求められる。


 話を聞いて「小説の書き手はコンシェルジュに似ている」と思った。


 小説というのは、書き手の意図したものが読み手に伝わってナンボであり、いくら素晴らしい文章を書いても伝わらなければ意味がない。

 中には自己満足で書いている人がいるかもしれないけれど、ネットに公開されたweb小説は「誰かに読んで欲しい」といった思いがあるのが一般的。

 カクヨムの作品もまずは「伝わること」を意識する必要がある。


 小説の書き手を「コンシェルジュ」に、読み手を「利用客」に、それぞれ見立てて考えると、書き手は常に読み手の立場に立って執筆することが大切。

 と言っても、作品のカテゴリー、ストーリー、構成などを、使い古された、ワンパターンなものに合わせるという意味ではない。

 あくまで、読み手が小説を楽しめるよう配慮する――読み手にストレスを感じさせない文章を意識するということ。


 なお、コンシェルジュはできるだけ多くの利用客に満足してもらうことを目指しているものの、決して百パーセントではない。

 中には、度が過ぎた要望を突き付けてくる「勘違い野郎」や、苦情を趣味としている「クレイマー」もいる。そんな者の言っていることを真に受けるのは自虐行為であって、企業にとってマイナスの効果が生じてしまう。


 小説の場合も、読み手の大部分に伝わるような文章を書く必要があるものの、百パーセントである必要はない。

 言わずもがなではあるけれど、読解力が著しく低い者までを「読み手」と位置付けてしまうと、作品は小学生の作文レベルにならざるを得ない。伝わったからと言ってそれでは全く意味をなさない。

 ちなみに、「伝わらないこと」と「読まないこと」は別物。「その作品は自分に合わない」と言われるのはあくまで趣味の問題であって、なのだから問題はない。


 友人の話で特に印象に残ったことがある。


 「自分は無視されている」と感じた利用客のほとんどは嫌な気持ちになる。リピーターになることはなく、クレーマーになる可能性が高い。

 そこで、利用者には「目配りしている」といった姿勢を見せることが大切。ちょっとした声掛けや子供に手を振る行為でもいい。

 ただし、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」でもあり、あまり踏み込み過ぎるのはNG。良かれと思って言った言葉に「言われなくてもわかっている」といった態度を示す人もいる。

 利用者がファンになるかクレーマーになるかは企業にとって大きな問題。「快適」が「不快」に変わる一線をしっかりと見極める必要がある。。


 カクヨムにおいても、自分の小説に興味を示してくれた読み手(≒顧客)を無碍むげに扱わないことが重要。

 「これでもか!」と言わんばかりのくどい描写や、「この話さっき聞いたけど?」と思うような記述を避けることで、読み手のストレスが溜まる境界線デッドラインを見極めることが大切。


 それはそうと・・・・・・このエッセイを書けば書くほど、ボクの前の課題の山が高くなっていく気がする。



 RAY

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