第26話 邪魔者たる親を如何にして消し去るか?


 物騒なタイトルと思ったかもしれないけれど、未成年をメインキャラに据えた物語を書いた経験がある方は、思い当たる節があるのではないか? 

 特に、非現実的なシチュエーションを背景にした、ファンタジー物やSF物では、この問題は書き手の頭を結構悩ませる。


 例えば、可愛らしい妖精とともに夜な夜な家を抜け出し、世界の平和を脅かす敵と対峙する主人公は、親の目を盗んで行動することが不可欠。

 また、どこの誰とも知れぬ、記憶喪失の美少女を自分の部屋に住まわせることになった主人公は、親にばれないよう衣食住の面倒をみなければならない。


 あくまで一例ではあるけれど、親がいては物語が思うように進まないケースがあるのは明らか。

 かと言って、このような異常事態に親が全く気づかないという設定は、リアリティが欠如したご都合主義となり、どうにも白けてしまう――と、良識のある書き手なら思うだろう。


 当たり前ではあるけれど、この手の話は未成年層が主たるターゲット。監督者である親の存在が物語の制約となるのは、はっきり言って受けが悪い。「親なんかいなければいい」。読み手の心の声を聞いた書き手は、如何いかにして消し去るかを必死に考える。


 一番手っ取り早いのは、すでに多くの書き手が実践に移している「主人公の異世界送り」。親はおろか大人の干渉を全く受けない空間を小説の舞台とすること。ただ、誰でも思いつくような、安易な逃げ道であるため、ここではあえて触れないこととする。


【閑話休題】


 実は、この問題は現代ファンタジーやSFに特化したものではなく、恋愛やラブコメにも絡んでくる。

 恋愛物では、帰宅後の主人公の状況も描く必要があり、また、自宅(自室)を恋愛の舞台として組み入れることでストーリーにも幅が出る。

 加えて、兄妹や姉弟の間に恋愛感情が芽生えるラブコメ物では、家庭が主たるフィールドとなることから、常時親がいる状態で物語を展開させるのは限界がある。


 そこで、書き手が考えるのは「如何いかにして一人暮らし(又は二人暮らし)の環境を作り出すか」。

 露骨な言い方をすれば、一人暮らしであれば、自由にヒロインを連れ込める。また、夜な夜な家から抜け出す状態が日常化しても誰の目も気にすることはない。ストーリーによっては、兄妹や姉弟の二人暮らしがベターな場合もある。


 ただし、このシチュエーションを作る際にも注意が必要。

 なぜなら、ここで誤ると、リアリティの欠如により読み手が白けてしまったりキャラに感情移入できなくなるから。


 作品のいくつかに目を通したところ、以下のようなパターンが目についた。


 ①両親は交通事故で亡くなり、主人公(または主人公と兄弟・姉妹)が両親の遺産を使って一人(または二人)暮らし。

 ②シングルマザーの母親が夜の仕事に付いており、夕方から深夜までの間、主人公(または主人公と兄弟・姉妹)が留守番。

 ③両親が主人公(または主人公と兄弟・姉妹)を日本に残して海外赴任。

 ④両親は地方にある本家に戻り、主人公(または主人公と兄弟・姉妹)は学校の都合で東京のマンションに一人(または二人)暮らし。

 ⑤主人公(または主人公と兄弟・姉妹)は全寮制の学校に通っており、それぞれ寮暮らし。規則は厳しいものの実態はユルユル。


 自分が書いているときは「ナイスシチュエーション!」と思ったことが、客観的に見ると違和感ありあり。もちろんボクも思い当たる節あり(笑)


 まず、金銭的なバックボーンがないケースは問題外。バイトしながら家事をこなし昼間は学校へ行くなんてまず無理。

 それでいて、妹や弟の面倒をみるっていつ寝るの? しかも、そんなのに限って、トレンディドラマに出てくるような、広々としたマンションに住んでいたりする。生活が苦しいんだから、幽霊が出そうな築四十年の木造アパートに引っ越しなよ。親が残してくれた持家だとしても背に腹は代えられないでしょ?(すっかり話し言葉)


 一方、金銭的なバックボーンがある場合は可能かもしれない。ただ、不幸せ感が薄れることで、物語としてはインパクトが小さくなる。

 また、どんな事情があるにせよ、中高生を一人又は二人で住まわせることの非現実感が払拭できない。そんな親がいるとしたら、馬鹿か育児放棄かのどちらかだと思う。「子供のことを信じている」なんてそれらしい言葉を吐いたところで、リアリティの無さは否めない。


 なお、学校で寮生活を送っているという設定は無難なところであり、学園物のほとんどはこのパターン。違和感はないものの既視感はありあり。他の物語と区別するのがひと苦労といった課題がある。


――と、言いたい放題してみたものの、こんな風に思っているのはマイノリティなのかもしれない。


 前述したとおり、読者のほとんどは未成年。彼らは、非現実的なシチュエーションに憧れを抱き、そんな舞台で活躍するキャラに自己を投影することで満足感を得ている。

 そう考えると、彼らの中では、それに至った背景は読み飛ばしても問題ない部分なのかもしれない。


 いわゆるミステリー小説では、読み手は、被害者が死に至った背景やその人間関係など、どんな小さなことも見逃せない。ちょっとした会話や描写にも神経を研ぎすまして作品と対峙する――ただ、ラノベ系小説はそうではなさそう。


 「メリハリをつける」という言葉が適切かどうかはわからないけれど、前段は手を抜いても問題ない気がする。読まれないのであれば労力の無駄だから。


 あっ、今回のエッセイも労力の無駄だったのかも……。


「いいんだよ! 親のことなんかどうでも!」


 そんな言葉で一蹴されてもおかしくなさそう。マイノリティの戯言として。



 RAY

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る