第20話 行方
九龍頭と井筒は野薔薇荘の二階の廊下を足早に通り抜けていった。客がいなくなった水晶の間の扉に手を掛けて、九龍頭は言った。
「あの晩に飯島美晴の部屋で、桐生信行さんが亡くなっていた。そして肝心の飯島美晴はどこかに姿を消していた。そう、まさにどこかに隠れたかのようにね」
「九龍頭先生、あたしにはさっぱり話が見えないんですが……」
「この屋敷は要は新しく作り替えられたわけじゃなく、再現されたんですよ。当時のままにね」
九龍頭は水晶の間の真ん中に来ると、井筒に訊いた。
「この場所で赤々と火が燃えていましたよね?ってことは、我々はこの火に意識が向いてしまっていたんですよ。その背後で起こっていた事には気付かないで」
「背後?」
「そう、このウォークインクローゼットなんてハイカラなものですよ。僕がここに目を向けたときに気付くべきでしたよ。飯島美晴はこの部屋着は使っていない、にも関わらずハンガーにかかったこれらは動かされた形跡があることに。あとは二階には部屋が6つあるにも関わらず、窓が一つ余分なことに」
「て、ことは?」
九龍頭はウォークインクローゼットの中に入ると壁に手をかけた。足元で何かがかちゃりと音がした。
「この壁は、どうやらどんでん返しになっているみたいですよ」
真ん中を軸にひっくり返った壁の向こうは、暗く埃臭い空気が漂っていた。九龍頭はライターの火をあて、その狭く短い廊下を抜ける。
部屋はそこにあった。窓からはうっすらと光が射し込んでいる。客室に比べ、幾らか殺風景な部屋ではある。その部屋の真ん中にある籐椅子に誰かが腰かけているようだ。
「あっ……!」
そこにいたのは、美しい姿とはかけ離れた、飯島美晴の無惨な射殺体であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます