第20話 行方

 九龍頭と井筒は野薔薇荘の二階の廊下を足早に通り抜けていった。客がいなくなった水晶の間の扉に手を掛けて、九龍頭は言った。


「あの晩に飯島美晴の部屋で、桐生信行さんが亡くなっていた。そして肝心の飯島美晴はどこかに姿を消していた。そう、まさにどこかに隠れたかのようにね」


「九龍頭先生、あたしにはさっぱり話が見えないんですが……」


「この屋敷は要は新しく作り替えられたわけじゃなく、再現されたんですよ。


 九龍頭は水晶の間の真ん中に来ると、井筒に訊いた。


「この場所で赤々と火が燃えていましたよね?ってことは、我々はこの火に意識が向いてしまっていたんですよ。その


「背後?」


「そう、このウォークインクローゼットなんてハイカラなものですよ。僕がここに目を向けたときに気付くべきでしたよ。飯島美晴はこの部屋着は使っていない、にも関わらずハンガーにかかったこれらは動かされた形跡があることに。あとは二階には部屋が6つあるにも関わらず、窓が一つ


「て、ことは?」


 九龍頭はウォークインクローゼットの中に入ると壁に手をかけた。足元で何かがかちゃりと音がした。


「この壁は、どうやらになっているみたいですよ」


 真ん中を軸にひっくり返った壁の向こうは、暗く埃臭い空気が漂っていた。九龍頭はライターの火をあて、その狭く短い廊下を抜ける。

 部屋はそこにあった。窓からはうっすらと光が射し込んでいる。客室に比べ、幾らか殺風景な部屋ではある。その部屋の真ん中にある籐椅子に誰かが腰かけているようだ。


「あっ……!」


 そこにいたのは、美しい姿とはかけ離れた、飯島美晴の無惨な射殺体であった。

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