第5話 事件の考察
しかし美晴はくすりと笑うとペルメルをふかして言った。
「でもお生憎様、簡単には部外者には話さないわ。推理して御覧なさい?」
「こりゃ参ったな。なら、僕の心に仕舞っておきますよ」
九龍頭は配られた珈琲に角砂糖を1個落とし、くるくると掻き混ぜた。
「九龍頭さんは、お仕事かしら?」
「どう思われますか?」
「さしずめ、あの事件の取材とか……」
「あの事件の? はて」
「惚けたって無駄ですわ。あの15年前の事件は今でこそ風化したけれど……」
「あははは、ばれましたか」
九龍頭は肘をテーブルに突いて、覗き込むように美晴の顔を見た。垂れた前髪の間から覗く瞳はまるで何かを見破ろうとするかのような鋭い眼光がある。
「野薔薇荘事件。この野薔薇荘がかつて百合根家の別荘だった時代に起こった一家惨殺事件。犯人は執事の
「事件現場はあまりに壮絶だった為、事件関係者は数人気が狂ってしまったというわね。それより何より恐ろしいのは、その大滝のあまりに詳細な証言よ」
「えぇ、まさに。まるで弁士のような弁舌で仔細に証言をした。紛うことなく彼が犯人だと断定され、逮捕から五日後、彼は絞首台に送られた」
顎を触りながら珈琲を舐めるように飲む九龍頭。
「全ての凶器、物証は大滝の部屋に隠されていたわけですがね。ただ……僕はね、ちょっとだけ引っかかる事があるんですよ」
「と、いうと?」
「あまりに細かすぎるんですよ。まるで何か物語を読んでいるかのようでね」
九龍頭はその調書を何かのきっかけで目にすることがあった。それをふと頭に浮かべた。
【主人である
一節を暗唱する九龍頭の眉間に微かに皺が寄る。
「そこまで仔細だと、間違いないと思うけど」
「でも、一家の殺害について、仔細に語っているのは損壊の部分だけなんですよ。その殺害については極めて粗末だ。あんなに仔細に語ったのに」
「と、いうと?」
「想像の域は出ませんが、誰かを庇っている可能性があります」
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