第19話 死角
人攫いの噂があった百合根一族。そしてそこに嫁いだ静代の妹、緋沙子。空襲で焼けた野薔薇荘の再建を買って出た桐生信行。
全てが繋がっているようで、てんでんばらばらだ。九龍頭は小説のプロットよりも更に難解な関係に頭痛を感じる程悩まされていた。
次に訪れたのは、支配人の蒲生のもとだ。蒲生は見た目の落ち着いた雰囲気に反し、なかなか気の小さな男のようだ。支配人の部屋を叩くと、恐る恐る扉を開き、その小さな目でねめつけるように九龍頭を見て、部屋に迎え入れた。
「九龍頭先生。一体どういったご要件で?」
「いやいや、御時間はとらせませんよ。二三質問をするだけです」
白い八重歯を見せて笑う九龍頭に、蒲生はいくらか安心したようだ。九龍頭を部屋に迎え入れると、茶碗に沸かした日本茶を淹れた。
「この屋敷の再建をなさったのは、桐生さんだと伺いましたが……」
「左様で御座います。建設当初、私は存じ上げておりませんでしたが、何しろ全ての部屋を完全に再現したとか……」
「なるほど、桐生さんは空襲より以前にこの屋敷をご存じだったのでしょうかね?」
「の、ようでありますよ?」
「奥様が百合根緋沙子さんのお姉様だというからでしょうかね?」
「多分……しかし妙です。桐生さんが静代さんと知り合って結婚なさったのは、10年前、空襲で屋敷が焼け落ちた後なはずです」
「え? なら何故この屋敷を完全に再現なんて……」
「それはよく分かりませんが、百合根一族と桐生さんは、事件の起こる前から面識があったのでしょうね?」
九龍頭は釈然としないような感覚を覚えた。
「そうだ、ちょっとだけ妙なことがありましてね」
「と、言いますと?」
「いちばん端の部屋を大層気になさっておいででした。いちばん端の部屋といえば……」
九龍頭の頭に天啓のような閃きが起こった。蒲生に礼を言うと、九龍頭は井筒のいる部屋に向かい、扉を何度も叩いた。
「誰だ? って九龍頭先生?」
「井筒さん、ちょっと付いてきて下さい。できれば今すぐに」
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