第18話 隠れた謎

 九龍頭は柘榴石の間の扉を叩いた。扉の向こうには桐生静代がいる。九龍頭は桐生静代に話を訊く為に部屋を訪れたのである。

 桐生静代は扉を開くと、九龍頭を部屋に迎え入れた。眠れなかったのだろう、その大きめの瞳の下には微かに隈ができている。


「静代さん、少しお時間よろしいですか?」


「ええ、構いませんわ」


 静代はやや肉付きがよくなってはいるが、昔はさぞや美形だったのであろうと思える。高い鼻梁にぽってりとした唇がついている。

 

「この御屋敷ですが、空襲で焼けてしまって、その建て直しをなさったのは……」


「ええ、主人ですわ。私もまぁここに縁がありますので……」


「と、申しますと?」


「私の妹の姓は百合根と申しますの」


 九龍頭は身を前に乗り出して訊いた。


「え?」


「執事の大滝に殺害されたのは、私の双子の妹ですの」


 驚いた。この桐生静代にもこの野薔薇荘に因縁があるのだった


「そうは申しましても、私は女学校を卒業しましたらすぐに東京の劇団に入りました。妹は資産家に見初められて嫁入りをしましたが、まさかこんな……」


 静代は遠い目をして言った。


「なるほど……しかし、貴方とはあまりこの御屋敷は関係がないように思われますが……」


「離れているとはいえ、血を分けた妹が嫁いだ家ですもの。また復活するのであれば、喜んで協力致しますわ」


 静代はにっこりと笑った。九龍頭は首を縦に振ると、人懐っこい笑顔を見せる。

 九龍頭は口を開こうとしたが、先程の坂巻の話を彼女にする事は避けることにした。今する事ではないと九龍頭は判断したのである。


「しかし何の因果でしょうかね、桐生さんはこの屋敷の再建をなさったのでしょう?」


「……その為に私と結婚したんですよ。主人は」


「え?」


 九龍頭は言った。静代は遠い淋しそうな顔をしながら続ける。


「緋沙子に近付く為、妹にごく近い私と結婚する事で主人はこの忌まわしき館と繋がりたかったのですよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る