第17話 黒い噂
九龍頭は散らばったカナメモチの枝葉を拾い集めている坂巻のもとに向かった。坂巻は腰を拳の裏側で叩きながら麻袋にそれを放り込む。カナメモチを枝を集めながら、九龍頭はそれとなく訊いてみる。
「あっ、だめだよお客さん。これはおいらの仕事なんだからよ」
「いやいや、僕も好きでやっていますから。ところで坂巻さん、ちょっとお訊きしたいんですがね」
よっ、と気合いを入れるように言うと、坂巻は腰を逸らした。
「いいよ。なんだい?」
「この御屋敷は長いんですか?」
「空襲で焼けちまってからだから、蒲生さんと同じくらいだ。それにしても、物好きな輩がいるもんだってね。こんな曰く付きの屋敷をまた建て直すってよ」
「やはり、噂は聞かれていた?」
「あったんめぇさ。ま、事件がある前から奇妙な噂はあったもんさ」
「前から?」
庭石に腰を下ろすと、坂巻は左右をちらちらと見て小声で九龍頭に囁いた。
「白鷺高原の麓の町で、人攫いがよく出てたみてぇでさ。その人攫いが、屋敷の連中だったって噂」
「え? それは一体……」
「そのまんまさ。だから戦争前はちらほら言われてたもんさ。あの野薔薇荘の奴らは人を食ってるんじゃねぇかってな」
まさか、あの事件の際、犯人である大滝は頑なに動機については【あの呪わしき一族に鉄槌を下した】と言っていた。それが事件の動機としたならば……
「だからさ、正直な話あの事件の犯人っちゅう大滝? あの執事さんには言わねぇけどよ、皆感謝してたんじゃねぇかな? それによ。あの事件から人攫いがぱったりなくなったんだよ」
「え?」
「そういうこったよ。そうそう、ここをまた作り直そうっつったのは、どうやら昨日殺されちまった桐生さんって話らしい」
「桐生さんが?」
「おう、まぁどんな理由かは知らないがね。さて、おいらはまた仕事に戻るか。あんた、暮れ暮れもあんま喋るんじゃねぇぞ?」
坂巻は口を真一文字に結ぶと、立ち上がり麻袋をぶら下げて歩き出した。
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