第16話 消えた女
井筒の言う通りだった。果たして飯島美晴はどこに消えたのか、そして彼女が桐生信行を殺害したのか、この嵐の中、彼女はどこにいるのか……
そうしているうちに、朝を迎えることになった。外を蹂躙した嵐は過ぎ去り、まさにこの野薔薇荘を陸の孤島のようにぽつねんと残していった。
来た道である山道は嵐の所為で底なし沼のように泥濘み、人が踏み入る事も出来ないようになってしまっているのである。
取り残された九龍頭達は朝食を済ませると、嵐のあとの庭に出ていった。
「こりゃ……酷いな」
まるで巨大な怪獣でも過ぎ去ったように滅茶苦茶になってしまっている。生け垣に植えられたカナメモチの葉は無残にもむしり取られ散乱してしまっている。
「こんな中、もし飯島美晴が出ていったというなら……生きてはいなそうだ」
井筒は言った。九龍頭は庭から屋敷を見渡す。噴水のある側から二階を見ると、8つの窓ガラスが見える。各客室と廊下の窓だろう。
九龍頭は思い出した。この柘榴石の間から事件の起きたその夜、真っ赤な光が洩れていたことを……
あの時間に、桐生信行は部屋を出て、飯島美晴のいる水晶の間に向かったのだろう。そして拳銃により倒れた。
飯島美晴は、桐生信行を何故、何をねたに強請っていたのだろうか……九龍頭は井筒に訊いてみることにした。
「井筒さん、飯島美晴ですが、何故桐生信行を強請っていたのでしょうか?」
「あぁ、先生。これは我々の推測の域を出ないのではありますが、飯島美晴は桐生信行のいわば、不倫のネタを握っていたようなのです」
「え?」
「そうは言いながら、その相手はまさに渦中の飯島美晴というわけなのですがね?」
「……
「そう、その手口は美人局のまさにそれなんですな。性悪の女狐みたいなもんですよ」
そんな単純なものかな……それにしてもこの館に集まった人間、あまりにも因縁が深すぎる。まるで……何かに導かれたかのように。それを思うと、九龍頭は何かが胸につかえたような思いに苛まれるのであった。
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