第15話 疑惑

 客室の前に野薔薇荘にいる人間が集結している。部屋は瑪瑙の間だ。ドアの隙間から赤っぽい光が洩れている。

 天羽太一郎は憮然とした顔で浅香源蔵に向かい合っている。浅香民子と桐生静代は眉間に皺を寄せ天羽を見ている。

 九龍頭は蒲生に訊いた。


「どうなさったんですか?」


「どうしたもこうしたもないよ。この男、物騒な物を持ってるぞ」


 浅香は天羽を指差した。目線を逸らしたまま天羽は舌打ちをした。天羽の鞄から浅香は何かを取り出す。


「拳銃……」


「おい、お前なんだろ? お前がやったんだろ?」


「勘弁してくれ。拳銃を所持しているのは私だけじゃないだろう? 第一私は……」


 天羽は右手をちらと見て言った。


「若い頃、右手を怪我した所為で握力がほぼないんだよ」


 九龍頭は頭を撫でながら天羽に頷きかけた。


「なるほど、わかりました。わかりましたが、しかしなぜ貴方が銃を……?」


「拳銃は、父の形見だ」


 溜息をつくと、天羽は舌打ちをして続けた。


「あの野薔薇荘事件を統括していた刑事は、私の父だった。」


 ざわざわと場がざわついた。井筒はほうと一言告げる。


「……まさか、今里警部の息子さんだとは……」


「天羽太一郎。旧姓は今里。父が亡くなり、私は天羽造船会長に養子として引き取られた。コネクションがあったからね」


「それじゃ、その拳銃は?」


「父の形見だ、銃弾なんか入っていない。この鞄の中の銃弾はペンダントだ」


 井筒は天羽に訊いた。


「なら、俺のことは……」


「もちろん、存じていますよ。何故この屋敷にいらしたかという事もね。井筒警部」


「け、警部だ!?」


 浅香は素っ頓狂な声をあげた。井筒はやはり先程までと変わらない軽薄そうな笑顔でいやいやと告げた。


「あなた方を騙すつもりはなかったんですがね。しかしながら私はとある人間の身辺を追っていたわけでしてね」


「……飯島美晴ですか?」


 九龍頭の問いに、井筒は頭をぴたぴたと叩きながら答える。


「鋭いな、さすが探偵小説の先生だ。そう、飯島美晴です。とはいえ、我々は飯島美晴を脅迫罪で追っていたんですけどね」


「脅迫罪?」


「よくない噂があった女性記者ですからね。今回は桐生信行への脅迫の容疑です。しかしながら、彼女は何処に消えたのか……」




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