第14話 事件現場

 空白の1時間の間、桐生信行は飯島美晴の部屋である水晶の間に向かい、そこで絶命した。奇しくも探偵役になるべくしてなったような九龍頭は件の水晶の間に向かう。

 疑問は挙げればきりがない

 何故わざわざ桐生は水晶の間で死んだのか?

 桐生と美晴の関係は?

 美晴はどこに消えた?

 何故部屋の真ん中で火が上がっていたのか?


「火……か」


 九龍頭は水晶の間に入った。既に桐生の亡骸は部屋にはなかったが、濃密な死の匂いは薄灰色の部屋に纏わり付いている。

 部屋に入ると、右手には何もない、左手にはウォークインクローゼット。美晴は部屋にある部屋着には着替えていないようだ。ただ、一度それを手にしたような感じはある。

均等に並べられていたハンガーが少し動いている。

 正面の火があがっていたテーブル。灰皿があり、そこには焼け焦げた跡、そしてペルメルの吸い殻、紙切れと、何か紙ではない何かを燃やしたのだろう。

 燃やしたのは、燃え滓に残った筆跡からすると、美晴の取材ノートらしい。


「これを燃やしたかったのか?」


 黒に変わった紙切れには【桐】、それに【バラ荘】……


(まさか……桐生はこれを消す為にここを訪れた。そして美晴に……だとしても、肝心の美晴は?)


 九龍頭は腕を組んで部屋をぐるぐると歩き回っている。頭の中で部屋の上面図を描く。

 部屋から入ると正面に横たわるベッド、ベッドの上には窓があり、足下側、つまり部屋の右手には飾り棚。頭側にはナイトテーブル。全部屋の間取りは同じらしい。

 

「犯人は……美晴なのか?」


 呟くように九龍頭は言った。何かが頭に引っ掛かっているが……


「九龍頭先生!」


 井筒が部屋の外から九龍頭を呼んでいる。現実に戻ってきた九龍頭は部屋から外に出ると、井筒は腕を組んでにやついている。


「どうなさいました?」


「犯人はわかりましたか?」


「そんな小説みたいにはいきませんよ」


 頭を撫でながらぎこちなく九龍頭は言った。


「そうでもないかもしれません。ちょっと来て戴いてよろしいですか?」


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