第22話 疑念を呼ぶ疑念
九龍頭は再び部屋に戻ると、鞄に突っ込んでいたわら半紙に疑問を大小問わずに書き散らかした。小説のプロットを作るときによく彼がやる手法である。
こうなると誰の声も聞こえなくなるのが九龍頭の悪い癖である。部屋に戻ると施錠して、頭を掻き毟りながらぶつぶつと何かを呟いている。
果たして、飯島美晴は自殺なのか?否、間違いなく他殺だ。だとしたら一体誰がいつ?桐生信行殺害の後なのか?はたまた先なのか?何故あの隠し部屋にいたのか……そして誰にその隠し部屋に……?
九龍頭の頭にまた再び違う仮説が浮かんだ。確証は極めて薄い。しかし実証することができれば、間違いなく事件の解決は早まる。早まるが、肝心の時間帯の問題が解決しない。
九龍頭は部屋を出る。向かう先は浅香夫妻がいるホールだ。多分夫妻は喫茶室で珈琲を飲んでいるだろう。
「あっ、浅香さん」
案の定、浅香源蔵は一人で窓際のテラスに座っていた。ここ、宜しいですかと九龍頭が訊くと、浅香は構わんよと返し、座るように促した。
「お兄様について、二三お伺いしたいのですが」
「あぁ、私の話せる範囲であればな」
「有難う御座います。お兄様はずっとあの屋敷に住み込みで?」
「の、ようだな。今思えばあれは幽閉に近かったのかもしれんな。ひなさんも可哀想にな……」
「ひなさん?」
「兄の嫁さんだ」
「その方は?」
「さぁ、あの事件以来……いや、事件の前から音信はなかったからな。いい人だったのに……」
「ご健在がどうかは?」
「一切不明だ、恐らくは生きてはいまいな。この時代だ、亡くなっても不思議ではない」
「そうですか……それは……」
「構わんよ、それにしても綺麗な人だったよ。背格好だけで言えばそうだな、百合根婦人にそっくりだったよ」
九龍頭ははっと思い付き、がばっと立ち上がる。椅子が派手な音をたて後ろに滑った。
「そう……でしたか……いや、有難う御座います。それでは……」
「お役に立てましたかな?」
「はい、非常に。この御恩は忘れません」
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